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天安門事件、新型コロナ、香港デモ…騒動の裏で進む「中国共産党のメディア支配」

2020年06月04日 公開

加藤青延(NHK専門解説員・武蔵野大学教授)

 

いまだ明らかにされない死傷者数の謎

天安門事件で一体どれだけの死傷者が出たのか、そもそもその数字すら、正確には事件から30年たった今なおはっきりしていない。

中国共産党が公式に認めた死者の数は319人とされてきた。これは天安門事件があった1989年の9月、日本の訪中代表団との会見の際、国務院総理の李鵬が明らかにした数字だ。

一方、機密解除された英国の公文書には「少なくとも一般市民1万人以上が殺害された」と記されていた。さらに100万人が殺されたという噂まで広がったと、筆者の当時の取材メモには記されている。

それにしても中国共産党が実質的に認めた数字の319人と、英国の「機密情報」1万人以上とではあまりにかけ離れている。事件の直後、筆者は北京市内の病院に次々と連絡を取り、担ぎ込まれた遺体や病院で死亡した人の数を集計する取材作業に関わった。

その結果、事件の直後から数日間に、100人近くが死亡したところまで自分たちの手で直接確認できた。だが市内が大混乱に陥ったため、それ以上はつかめなかったのだが、100万人などという膨大な数字にはなり得ないという実感がした。ではなぜ、そのような情報が出回ったのか?

 

「100万人死亡説」拡散の張本人は中国共産党か?

当時の北京市民の間には、確かに「解放軍の兵士が市民を100万人殺害した」という噂が流れ、実際に市内のインタビューでそのように答えた市民も数多くいた。

だが、その数字をどのようにして確かめたのかと尋ねると、誰もがたちまち口ごもり、あくまで人づてに聞いた噂にすぎないことを告白した。

当時、中国当局は、外国勢力のスパイが中国を攻撃するため街頭で意図的にそのような悪質なデマを流したと非難する喧伝をしていた。だが、北京の広大な市民を一日にして騙すほど強力な組織を持つ外国のスパイ集団が、当時北京に存在したとは考えにくい。

むしろ北京市民を威嚇し、委縮させることで武力鎮圧に抵抗する意欲を失わせようという当局側が流布した謀略の一環ではなかったのかと疑問を抱かざるを得ない。中国政府は天安門事件を最大のタブーとして、厳しい報道管制を敷き、事件の真相をひた隠しにしてきた。

そのため犠牲者の数に対する公式見解は、最後に明らかにされた319人のままで固定され、一連の弾圧でどれほどの学生・市民が犠牲になり、けがをしたのかは、事件から30年たった今に至るまで確定した数字は公表されていない。

 

「名場面」を作った戦車男の真相

民主化運動を軍が武力鎮圧した天安門事件。その「名場面」としてこれまで世界に広く伝えられてきたのが、戦車の前に立ちふさがる「勇敢な男(戦車男)」の写真や映像だ。

分厚い鋼鉄に包まれ大砲を搭載する威圧的な戦車に対して、たった一人丸腰で立ち向かうその勇ましい青年の姿は、「中国民主化運動のヒーロー」と受けとめられ、今なお、当時の画像や映像がメディアにしばしば登場する。

そのためか、今では多くの人が、あの写真こそ天安門事件そのものなのだと信じ込むようになった。だがその「勇敢な男の名場面」が天安門事件を象徴する一幕として使われるたびに、当時、武力鎮圧に関わった当事者たちは「何もわかっていない」とほくそえんでいるかもしれないのだ。

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