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なぜ自衛隊員にコロナ感染者が発生しなかったのか? 統合幕僚長が語るその“勝因”

2020年06月13日 公開
2022年07月08日 更新

山崎幸二(第六代統合幕僚長)

自衛隊中央病院でも院内感染は起きていない

山崎幸二(第六代統合幕僚長)写真提供:防衛省

――いかなる脅威であれ、それに立ち向かう備えと覚悟は万全だということでしょうか。

(山崎)災害派遣の開始にあたり、河野太郎防衛大臣から感染防護対策の徹底を指示されました。

それを受けて、われわれは「ダイヤモンド・プリンセス号」における災害派遣の業務ごとの感染リスクを判定し、防衛省独自の防護基準を設定するとともに、隊員がとるべき基本動作を明らかにしました。また、活動するうえでの動線、待機場所の「ゾーニング」も設定しています。

自己完結型の組織である自衛隊には、ウイルスの感染防護に知見を有する衛生部隊がいます。彼らが現地において、一般の部隊に対して教育を行なったことで、感染防護に必要な知識を派遣前から普及しました。

――感染症への対応では、先が見通せない不安も伴ったと思います。

(山崎)長期の活動に備えて、クルーズ船に近い本牧埠頭に宿泊及び休養場所を確保するため、防衛省が契約している民間船舶「はくおう」を運用しました。その後、派遣隊員の規模増大により、緊急に民間船舶「シルバークィーン」やコンテナハウスも借り上げました。

当初は「ダイヤモンド・プリンセス号」の船内で何が起きているのかわからず、活動の具体的要領は定まっていなかった。まさしく手探りの状態です。それでも部隊は日々の活動で得た教訓を、直ちに次の活動に活かしてくれた。日ごろの訓練の賜物です。

――自衛隊中央病院では、新型コロナの陽性患者を多く受け入れながらも、5月下旬現在、院内感染は起きていません。なぜでしょうか。

(山崎)自衛隊中央病院では、標準的な予防策を徹底しています。患者の対応にあたる医官や看護官は、必要に応じてN95マスクやガウンを着用し、手指消毒の感染防護策を実施するほか、日々の業務終了時に体温を測定し、健康管理に万全を期しました。

同病院は新型コロナ以前から感染症指定医療機関に指定されており、定期的に対処訓練を実施していました。今回は初めての実際の任務でしたが、訓練と同じ構えで対処できたことが奏功しました。

とくに院内感染を防止するため、罹患した可能性のある患者の誘導要領や、感染のリスクに応じた個人防護具の選択及び感染症病床の確保は、対処訓練の成果を活用できた事例といえるでしょう。これまでの教育訓練が間違っていなかった証左だと考えています。

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