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「ポスト安倍レース」に影響も? コロナ禍に直面する米大統領選の行方



2020年07月16日 公開

村田晃嗣(同志社大学法学部教授)

村田晃嗣写真:吉田和本

トランプ大統領はパンデミックを通じて、アメリカの抱える矛盾や困難をより鮮明にさせる「拡大鏡」となった――。同志社大学法学部教授でアメリカ外交が専門の村田晃嗣氏はそう分析する。11月に開催される大統領選に、トランプ氏とバイデン氏はいかなる戦略で挑むのか。その結果が日本に及ぼす影響とは。

※本稿は月刊誌『Voice』2020年8月号、村田晃嗣氏の「トランプは米国分断の『拡大鏡』」より一部抜粋・編集したものです。

 

パンデミックで顕在化した米国の矛盾

これまでのトランプ政権をふり返ってみると、大統領の暴言、スキャンダル、相次ぐ高官の解任や辞任など、通常の政権なら深刻な危機に陥るような不安定要因が揃っている。

それでも、これまでトランプ大統領が強気に政権運営をできた理由がいくつかある。まず、好景気が続き、失業率が低かったことである。

そして、トランプ大統領が始めた戦争はなく、したがって、彼のために戦死した者がいなかったからである。アフガニスタンやイラクの戦場でよりも、精神的、経済的理由から帰国後に自ら命を絶った従軍経験者のほうが多かった事実は、十分に重い。

しかし、これらの安定要因はパンデミックによって霧消してしまった。世界はリーマン・ショックをはるかに凌ぐ景気後退に陥り、4月のアメリカの失業率は約15%と1939年以降で最悪を記録した。

当初、トランプ大統領はこのパンデミックを軽視して危機管理に失敗し、アメリカでは6月下旬時点で死者数が12万人に達した。

これはベトナム戦争以降のすべてのアメリカ人戦死者の数よりも多い。「戦時大統領」としては、明らかに落第であろう。

しかも、パンデミックとトランプ大統領という組み合わせは、アメリカがこれまで抱えてきた矛盾や困難の多くを、さらに拡大し顕在化させた。

トランプ大統領はパンデミックの責任をもっぱら中国と世界保健機関(WHO)に帰している(たしかに、両者の責任は重大である)。

これまでも、トランプ政権は経済と安全保障の両面で中国に厳しい態度をとってきたが、今回のパンデミックのために一般世論でも急速に対中感情が悪化している。しかも、それは各地でアジア人への人種差別をも誘発している。

すでに1年前に、国務省のキロン・スキナー政策企画局長が中国を「長期にわたり民主主義に立ちはだかる根本的脅威」と呼び、アメリカは「史上初めて非白人国家との多大な対決に備えていく」と発言していた。ちなみに、スキナー局長は、黒人女性として初めてこの職に就いた人物である。

政策サークルを超えた国民感情の悪化は、米中新冷戦をスキナー局長の予想どおり長期的なものにしよう。もしそこに人種的偏見が働くなら、なおさらである。

この米中新冷戦でアメリカに有利なのは、人口動態の変化である。中国が急速に少子高齢化していくのに対して、アメリカの人口はまだまだ増え続ける。ただし、アメリカが移民を受け入れ続ければだが。

トランプ大統領は、アメリカのWHO脱退にも言及している。すでにアメリカは政治的不公正を理由に、2018年6月に国連人権理事会から、そして19年1月には、イスラエルとともに国連教育科学文化機関(UNESCO)を脱退している。

1984年にも、ロナルド・レーガン政権がソ連の利益を擁護しているとUNESCOを脱退した(2003年に復帰)。国際機関は大国間の力学に翻弄されるし、中国の国際機関への影響力拡大は近年とくに顕著である。

加えて、アメリカは国際機関に主権を制限されることを極端に嫌う。そもそも、国際連盟にも加盟しなかったのだから。

「小さな政府」を志向する保守派からすれば、国際機関こそ「大きな政府」であり、連邦政府に対する州権の重要性を説くように、国際機関に対するアメリカの独立性を主張するのである。

だが、いかなる大国といえども、いかなる孤立主義をとろうとも、パンデミックに単独対処することはできない。アメリカが国際機関や多国間協力とどう向き合うのかという、古くて新しい難問を、今回のパンデミックはあらためて提起している。

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