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ゾンビ映画から考える、パンデミックへの向き合い方



2020年07月12日 公開

谷口功一(東京都立大学法学部教授)

谷口功一

国際政治学者のダニエル・ドレズナー著『ゾンビ襲来――国際政治理論で、その日に備える』(白水社)が話題を呼んでいる。同書で書かれるゾンビへの向き合い方が、現在のコロナ禍とあまりに重なるゆえだろう。我々はパンデミックにどう立ち向かうのか。『ゾンビ襲来』の邦訳を務めた東京都立大学法学部教授の谷口功一氏が「思考の距離戦略」としてのゾンビ考を公開する。

※本稿は月刊誌『Voice』2020年8月号、谷口功一氏の「『思考の距離戦略』としてのゾンビ考」より一部抜粋・編集したものです。   

 

コロナ禍における情報の氾濫

パソコンのモニターには人っこひとりいない首都の中心部が映し出され、普段の人混みが嘘のように静まりかえった街は不気味としか言いようがない。

背後のテレビに目を向けると、興奮し取り乱した様子の専門家がウイルス感染の拡散状況について支離滅裂な話をしている。

うんざりしてすべての映像の電源を落とし、机上の文章を読み始めると、そこには中国の長江中流域(武漢と重慶のあいだ)で最初の兆候が出現した際の詳細が記されている……。

……私が見ているのは、この間の銀座・和光本店前を24時間ライブ配信しているYouTubeのストリーミング映像でもなければ、民放の下卑たワイドショーでもなく、はたまた新聞や雑誌の記事でもない。すべてゾンビの話なのだ。

―――ゾンビ映画『28日後…』の冒頭場面、巨匠ジョージ・A・ロメロ監督の『ゾンビ(Dawn of the Dead)』のひとコマ、そしてマックス・ブルックスの小説『WORLD WAR Z(WWZ)』の冒頭エピソードなのである。

筆者は2012年にダニエル・ドレズナー著『ゾンビ襲来――国際政治理論で、その日に備える』(白水社)の翻訳を上梓した。発売当初に一部で話題にはなったが、2020年2月以降に突然、書店で再び多くの読者の手に取られはじめて重版され、驚いたのだった。

読者は明らかに今般のコロナ疫のパンデミック状況と映画や小説のなかで描き出されている想像上のゾンビ禍とを重ね合わせているのである。

本稿は緊急事態宣言がいったん解除された2020年6月第2週に書かれているものであり、この間張り詰めていた世間の空気もいくぶん和らいできたなかではあるが、いわゆる「第二波」の到来如何も含め依然として先行きは不透明ななかで書かれている。

以下では、これまで洪水のように押し寄せてきていたコロナ関係の情報や議論からは一歩離れ、一拍テンポを置き、あえて「ゾンビ」という視角からあれこれ考え、そこから学ぶべきことはないかを考えるものである。

昨今の人口に膾炙した言葉をもじるなら「思考の距離戦略(mental distancing)」としてのゾンビ考とでもいったところか。

実際、日々「戦争」の比喩の下に語られる生々しい数字やグラフ、統計や疫学などについての情報の氾濫に私自身も疲れてしまったというのが正直なところである。

それほどまでに戦争だと言うのならば、中国の兵法書『三十六計』に出てくる「指桑罵槐(しそうばかい)」戦術(*1)にならい、現実の疫禍に直接触れるのではなく、あえてゾンビという迂回路を通じ、対象からは距離をとった「思考の安全圏」を確保した上で思索を巡らすのも悪くはないように思われるのである。

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