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G7で最悪の水準…日本で自殺者がこれほど多い2つの理由

2020年07月21日 公開

河西千秋(精神科医)

 

自殺者の85%に共通する要因

しかし、自殺をする人は、そういった冷静で合理的な思考を失ってしまっている。自殺という、通常であればなし得ない行動を可能にするのは、その人の脳の働きが著しく偏った状態、つまり精神疾患の存在なのである。

「心理学的剖検(ぼうけん)」という、自殺者の生前の心理・行動を、正確かつ精密に再構成する調査方法が確立されているが、それによれば、自殺に至った方々の少なくとも85%以上が、自殺直前には精神疾患に罹患していたことがわかっている。

注意しなければならないのは、自殺は一つの原因だけで起こるものではなく、いくつもの危険因子が合わさった結果であるということだ。

いま述べた精神疾患もその一つであるが、「強い絶望感」「孤立無援感」「自殺をしてしまいたいという意思」は、自殺の前提条件になる。さらに、「重要他者との離別(喪失体験)」や「親族に自殺者がいること」に加え、「国の経済破綻」などが自殺の要因として知られている。

現在のコロナ禍においても、これらの危険因子を複数抱える方々が続出しているはずだ。経済的苦境を抱えた方々の多くは、「絶望感」「孤立無援感」を感じているだろう。また、家族から離れて施設などで他者からの支援や介護を受けている方々も、移動制限・接触禁止で「孤立・孤独」を感じているかもしれない。

同様に、感染症で大切な家族やパートナーを失った人をはじめ、経済的な問題で家族や仲間が離散状態となった方々は強い「喪失」状態に陥っているはずだ。

ただし、危険因子を複数抱えていたとしても、どこかのタイミングで他者からの支援やケアが入れば、自殺に傾いていく状況から救出される。

自殺からその人を救う人の手(保護的因子)の存在が重要だ。

 

メンタルヘルス・リテラシーが低い国・日本

残念ながら、日本の自殺死亡率は、G7のなかでワーストである。厚生労働省の人口動態統計によれば、長らく10代~30代の若者における死因の一位が自殺であり、40代でも2位、50代前半でも3位に入る。

どうして日本はここまで自殺者数が多いのか。それには2つの理由が考えられる。

1つは、日本人の国民性と自殺に、親和性があるためだ。恥の文化や切腹文化は日本人の深層心理に影響を与え、「ひと様の厄介にはなれない」「潔く死ぬ」「死んでお詫びをする」といった価値観がいまなお存在する。中高年男性において自殺が多いのは、失業=喪失体験といった側面があるためだろう。

2つめの原因は、日本における、「メンタルヘルス・リテラシー」の低さにあると私は考えている。万が一、職場においてストレスが高じ、心身の不調をきたせば、周囲から「メンタルが弱い」「仕事ができない人」とレッテルを貼られてしまう。

そのため、上司にも相談ができず、ぎりぎりまで耐えようとした結果、本当にメンタルヘルスが"ダウン"してしまう。

つまり、精神疾患を発症してしまうのだ。日本には、精神疾患に対する偏見が根強く存在するため、不調が強まっても早期の受診に至らず、そのことを本人も周囲も話題にできない。

他国のデータをみると、メンタルヘルスの重要性が認識され、その意識が根付いている国ほど自殺が低減している。北欧諸国はかつて、高自殺率国であったが、1980年代から直線的に自殺が減少している。そこには着実なメンタルへルス対策があった。

わが国では、98年に自殺者が急増し、以後、高止まりが続いたことから、法律の制定をもって自殺対策に取り組む流れができた。日本で初めて定められた自殺に関する法律は、2006年に施行された自殺対策基本法である。

同法の第二条では、自殺対策は個人ではなく社会が取り組むべきテーマであることを踏まえて、複合的視点からの対策が行なわれるべき旨が記された。現に第三条から第五条にかけては、自殺対策が「国、地方公共団体、事業者の責務」だと明記される。

同時に出された「自殺総合対策大綱」に基づき、現在、すべての地方自治体は自殺対策に関する何らかの行動計画や行動指針を備えている。

このような法律制定による自殺問題への対処は非常に画期的だ。また、自殺は個人の問題に帰するべきではなく、社会的に追い込まれた人には社会的な支援をする旨を明言し、国民の意識の転換を図った点で大きな意義があった。

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