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ジョブズが“生涯の師”と仰いだ日本人…謎に包まれた「禅僧・乙川弘文」

2020年07月31日 公開

柳田由紀子(ジャーナリスト)

 

Appleの創立者スティーブ・ジョブズとの出会い

スティーブ・ジョブズの結婚式での乙川弘文
スティーブ・ジョブズの結婚式にも参加した乙川弘文氏(『Steve Jobs: The Man in the Machine』[2015年]より)

――ジョブズも、そのような新しいタイプの禅僧だった弘文に惹かれるところがあった。

【柳田】弘文は、修行者の背中や肩を打つための棒である警策を使用禁止にするなど、人びとを締め付けずに坐禅を組む方法を提唱しました。一方でジョブズは、複雑な家庭環境によって大きなトラウマを抱えていたこともあり、禅以外にもヨガや断食、シャーマニズムなどあらゆる手段を試して、「自分探し」をしています。

その過程で禅に辿り着き、近所の禅堂を訪れると、弘文がいた。自己中心的で攻撃的なジョブズに対し、天地自然の流れに身を任せた生き方をする弘文。ジョブズは「意志」をもっていましたが、しなやかに生きる「智慧」をもっていなかった。その欠陥が2人を引き合わせたのかもしれません。

――あのジョブズに大きな影響を与えたといわれる反面、酒に逃げ、家族を滅茶苦茶にした弘文には、人間的な弱さを感じてしまいます。

【柳田】結局、いいお坊さんになろうとすると、家族は犠牲になってしまうのかもしれません。仏教には「四弘誓願」といって、お坊さんがいつも念頭に置く、四つの誓願があります。

そのうちの一つである「衆生無辺誓願度」は、「1人も取りこぼすことなく、すべての人を救済する」という誓いです。弘文も、この誓いを立てたからには、家族だけを優先するわけにはいかない。本来ならば、利他行を実践する修行僧は家族をもつべきではないでしょう。

しかし、弘文は目の前に現れた女性も救いたかった。とくに、3番目の妻となる女性は精神的な脆さを抱え、ボロボロになって生きていた。そんな彼女の姿をみて、ごく自然に手を差し伸べたのだと思います。

――複雑な内面をもつ人だったのですね。

【柳田】日本では無名の弘文ですが、一人きりで禅の普及を続け、欧米にいくつもの禅堂を建てました。日本人の僧侶でここまで海外での布教の成果を残した人はいません。

弘文の周りには自然と人が集まってきます。最初は誰かの家の一角で始まった参禅会が、いつしか寄付が集まり、禅堂を設立するまでになる。弟子が育てば託して、弘文は他の地域に移住し、また禅堂を建てる。『宿無し弘文』の「宿無し」は、そういった彼の生き方を表しています。

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