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「ポスト安倍」の時代、コロナ対策に当たる霞が関の“働き方改革”が必要な理由

2020年09月07日 公開

松井孝治(慶應義塾大学総合政策学部教授)

「クレーム」の対処に追われる官僚

現下の情勢ではすっかり旧聞に属しているが、厚生労働省の若手職員チームが根本匠厚労相(当時)に対し、業務や組織改善を求める緊急提言を提出したのは僅かに一年前、昨年の8月のことであった。

国会の質疑通告が恒常的に前日の夜になり、また委員会などを通さない資料要求やヒアリングも急増している結果、官僚たちは国会関連業務で連日徹夜状態に置かれるなど、およそ政策分析や立案にその精力を割けない状況を切々と訴えていた。根本大臣の指示で、実行チームが発足したが、2回の会合を開いたのみでその後放置されている。

一般の方々には国会対応といっても想像がつかないであろうから補足しよう。1990年代後半に橋本龍太郎政権が推進した橋本行革で、私が大手民間企業の同年代の方々とともに官邸主導や中央省庁改革の検討や基本法(98年成立)の策定の事務局に勤務していたときのことだ。

国会議員の方々の質疑対応や資料要求に追われるなかで、民間出身のある方に「皆さんは、株主総会を毎日やっているようなものですね。企業では年に一度ですよ」と言われたことをよく覚えている。

たしかに、国民の代表たる国会議員が集まり、政治の執行責任者である内閣と議論をする国会は、株主が結集して会社の重要事項を決定する株主総会と同様の役割だといえる。

大企業では、基本的に総務部が株主総会の準備を行なうが、現場の営業部隊や技術開発者が関わることはほとんどないはずだ。

しかし、政府の場合、連日深夜まで国会待機を余儀なくされ、答弁資料作成などの対応に追われるのはすべて現場の各部署の官僚たちである。民間でいえば、会社の稼ぎ頭である営業や開発部隊が、株主総会対策に張り付いているようなものだ。

今回のコロナ禍でいえば、厚生労働省でコロナ対策を担う実働部隊が連日国会に呼び出され、人員と労力を大幅に割かれた。

与党が法案や予算・対策の事前審査を行なうために、官僚は午前中には部会や対策本部に備えてその内容を吟味し、午後から夜中、そして早朝に至るまで質疑対応をこなさなければならない。

野党はといえば、国会質疑のみならず、合同ヒアリングで役人を容赦なく追い詰める。

いまの官僚は、与野党の議員や国民からの「クレーム」に応え、さらに厚労省であれば医師会などステークホルダー(利害関係者)との調整にも奔走せねばならず、その合間に政策の内容を詰める有様なのだ。

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