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コロナ禍の「奇妙な成功」で浮き彫りになった、日本政府の“弱さ”

2020年09月09日 公開

松井孝治(慶應義塾大学総合政策学部教授)

政府の強力な執行力という選択肢

このたびのコロナ禍では、日本政府の執行力の弱さも露呈した。これは安倍政権特有の問題ではなく、戦後日本が長く抱えてきた体質だ。新型コロナ感染拡大の初期段階で、諸外国が強力なロックダウン(都市封鎖)を断行する一方、日本は自粛の要請という緩やかな措置をとった。

結果的に日本の人口当たりの死者数は欧米諸国よりもかなり抑えられ、海外メディアからは「奇妙な成功」(米外交誌『フォーリン・ポリシー』)と評された。

しかし、次なる危機も「民度」や「神風」で乗り切れるとは限らない。日本が感染拡大を封じ込められた要因を具体的に検証するとともに、いざというときはロックダウンを含めた強力な措置をとる法的権限を政府には付与すべきではないか。

これはコロナ対策のみならず、安全保障政策においても同様だ。中国の海洋進出や北朝鮮のミサイル・核実験など、隣国による軍事的挑発が絶えない状況下ではとくに、最悪の事態に備えて権限を行使できる態勢を整えておくべきだろう。

政府の強制執行力濫用抑止の仕組みも含めて国会での議論が急務である。

日本政府の執行力の弱さは、国が持続化給付金の事業を一般社団法人サービスデザイン推進協議会に委託し、その大宗が電通に再委託されていた件からもうかがえる。もとより、本件は厳正な検証がなされるべきであるが、行政が事業を民間に委託すること自体はメリットも存在する。

各所との調整で迅速な動きがとりにくく硬直的な定員管理の制約のある公務員組織が、フットワークの軽い民間企業に事業を任せることで、そのスピード感が高まるからだ。

事実、市町村を通じて無条件に全国民に10万円を支給する「特別定額給付金」は、審査を必要とする持続化給付金に比較して圧倒的に給付が遅い。

今後さらに企業や個人への現金給付や給付付き税額控除のような政策メニューの活用を考えるのであれば、マイナンバーカードの機能拡大は不可欠である。

現状はあまりにお粗末で、相変わらず各省の情報システムは縦割りだし、国と地方自治体の情報システムは分断されている。

共産党一党独裁で人民を統制する中国や、人口約130万人の電子国家エストニアと現時点で同列には論じ得ないものの、日本の行政情報化は世界の主要国に比較して周回遅れである。

国民にとっては国と地方自治体、あるいは各省庁の区別は意味がない。周回遅れを取り戻し、むしろ質の高い公共サービスが利便よく迅速に提供できる体制を、今後10年程度を目標に一気に再構築すべきではないか。

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