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「小説は人生の備忘録」現役京大生作家の“人生観”

2020年09月15日 公開

青羽悠(作家)

「小説で頭を悩まして生きていく」と決めた

――本作では夢を叶える者もいれば、叶えられない者、そもそも目標をもてない者が登場します。青羽さんは作家という夢をつかんだといえますが、その道に進むことを決めたのはどういう想いからだったのですか。

【青羽】 作家という夢からは卒業したと思っています。僕の人生において「書くこと」は不可欠で、もしそれを取り上げられたら、自分の軸を保てない。だからこそ、これからも小説を書き続けると決めたんです。

ただ、作家専業で小説を書いて生きていく、とは必ずしも言い切れません。あくまで自らの人生が主軸にあって、その「備忘録」として小説という存在がある。

もちろん、構造を考える想像力や言葉を紡ぐ技術を磨くための努力はしているつもりです。しかし、物語に込めるメッセージは作家としての視点からだけでは見えない側面もある。

僕にとっての人生の領域は、作家という肩書に限定されるものではなく、もっと曖昧なかたちで広がっていくでしょう。

これは僕に限った話ではありません。世の中の誰しもがファジー(曖昧)な状態に置かれているのではないでしょうか。社会に出る前から、はっきりとした針路が決まっている人のほうがむしろ少ないと思います。

早くから進むべき道を絞るのは大きな挑戦ですが、じつは人生の幅を狭めないことにも勇気がいります。

――どのような肩書の人生を送るにせよ、自分なりの答えを見つけて生きるしかありませんね。

【青羽】 僕は本作を執筆する過程で「小説で頭を悩まして生きていく」という人生の基本方針が決まりました。

物語の終盤、水泳選手である夏佳が自分のことを信じると宣言する台詞があるのですが、これは完全に僕自身の言葉でした。

――夏佳の台詞に共感を覚え、励まされる読者もいるでしょう。

【青羽】 そう感じとってもらえると嬉しいです。僕は『凪に溺れる』で、「これからも小説を書き続けるのか」という自らの根本的な問いに終止符を打ちました。

もし今後、書くことが苦しくなっても、この作品を読み返せば、当時の自分の答えが記されている。まさしく、小説は僕にとって人生の備忘録です。

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