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大震災、疫病の流行…極限の状況でも人が「花」を必要とするのはなぜか?



2020年10月13日 公開

東信(フラワーアーティスト)

日本を花に喩えるならば蓮だ――。

1万年以上も前から、人びとは言葉では伝えられない想いを花に託して神々や死者に捧げてきた。2011年の東日本大震災、そして今回のコロナ禍においても、花の注文は下がるどころか20%近く増加したのだ。

どうして人びとは花を必要とし、花とともの時代を生きてきたのだろうか。今回、世界に名を馳せるフラワーアティストが日米中を花に喩え、花々を通じてこの混沌とする世界を切り取ろうと試みた。

※本稿は『Voice』2020年10月号より一部抜粋・編集したものです。

 

「生命の縮図」である花が教えてくれること

現代社会を生きる私たちは、SNSやインターネットの仮想空間に取り囲まれ、リアルな世界に目を向けなくなってしまった。人びとの瞳の先にあるのは消費社会が生んだ携帯の画面ばかりで、道を歩いても、地面に咲く小さな花の存在に気付くことがない。

植物には水や光が必要だが、私たちは水や火の意味さえ忘れている。ライターやガス栓をひねれば簡単に火が灯る生活をしていると、火や水が自然の産物であることも忘れてしまう。

しかし、木や風がなければ火を起こすことすらできず、生きるための食糧も調理できない。本来、私たちは自然によって生かされているのだ。人間は都市をつくるために自然を壊し、環境を変えてきた。

植物は環境の変化から深刻な影響を被る。たとえば桜の花は年々「白色化」が進む。昨今の世界的パンデミックも、ウイルスが棲む森林を破壊した人類に対する自然の逆襲なのかもしれない。

そう考えると、緊急事態宣言と外出制限によって社会との関係を強制的に断ち切られ、見えないウイルスへの不安に晒された人びとが、耐えがたい孤独を感じて花を求めたことに、何らかのメッセージを感じるのだ。

コロナウイルスの感染拡大時、とくにオーダーを受けたのは「強い色」の花だった。赤や黄色、オレンジ、ピンク、紫など、鮮やかで生命力のあるビビッドカラーを人びとは欲した。

花から生きる力をもらおうとしている――そう感じるとともに、窮地に陥った人びとが、食にも経済の足しにもならない花をなぜ求めるのか、理由の一端がわかる気がした。

私が辿り着いた一つの仮説がある。人間が狩猟を始める前、あるいは猿に近い存在のとき、私たちは花の実を食べて命を支えたはずだ、と。山野に咲く可憐な花に目を惹かれ、近づくと実がなっているのを見つけ、香りを吸ってふと口に入れてみる。

花実の味を知り、やがて生き残るために果物を食べるようになったのではないか。もしかすると、花の実を食べようと試みなかった種は、苛酷な環境のなかで生き残れなかったかもしれない。言い換えれば、人間が生きるためには「花」を好きになるしかなかった。

進化を遂げても、人類のDNAには「花」を綺麗だと感じ、求めるような記憶が刻まれている。そう考えると、生きるうえで必要不可欠ではない花を人間が必要とし続けた理由がわかる気がするのだ。

 

世界は一輪の花から変わっていく

現在の社会では、医療技術の高度化によって人びとの寿命が延び続ける半面、「人生」の儚さや移ろいを実感することが難しくなっている。「生」に対する実感が希薄化しているからこそ、精神的な行き詰まりや、虚無感を抱え、苦しむ人びとが増えているのではないだろうか。

花の命は一瞬だ。花は人生でいえば、1日で10歳分、年を取る。だいたい10日ほどで枯れるので、およそ100歳で命が終わる。10代は可愛い蕾。20~30代で咲き誇って、40、50、60代の社会を知った大人が現実にぶつかり諦めることを知るように、花も少しずつ萎れていく。70歳を超えると茎が曲がって小さくなり、やがて生命を終える。

そんなことを考えながら、私は蕾に始まり球根や根、名もなき雑草、150年を超える樹齢の松、そして朽ち行く花まであらゆる命を作品に用いる。どんな美しさにも永遠はない。だが必ず、その時々の美しさがある。

一輪として無駄な命はなく、この世に存在する意味をもって生まれてきた。それは人間と同じだ。私は21歳でこの世界に飛び込んでから、いままで億を超える花々をこの手で切り刻んできた。

自分に課された宿命は、花を「殺して生かす」こと。刻一刻と萎れゆく花を生けるとき、その命をいかに引き出し、際立たせるかに意識を集中させる。花が息を引き取る最期の瞬間まで誠心誠意、一つの命に向き合いたい。

花は「生命の縮図」であり、同時に自分の掌の上で「生が朽ちる瞬間」を実感する数少ない存在かもしれない。あなたも普段は通りすぎる花屋で一度、目に留まった一輪の花を買い、花瓶に挿してみてほしい。そして、萎れて命が尽きるまで注意深く眺めてみることを勧めたい。

花を毎日、観察していると、咲き方や色が日に日に変化し、吸い込んだ水の量が減っていること、そのたびに微かに躰を震わせていることに気付く。命が動く一瞬の美しさを心に留め、一生を全身全霊で全うする姿を目にしたとき、あなたは何を感じるのだろうか。

一輪の花から、世界は変わっていく。



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