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イアン・ブレマー氏が語る「リーダー不在の世界に起きる変化」



2020年10月20日 公開

イアン・ブレマー(国際政治学者/ユーラシア・グループ創業者兼社長)

オンライン撮影:津山恵子

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的感染)で世界は一変した。

世界の首脳や政府機関のリーダーと広く交流があるイアン・ブレマー氏は、国際的リーダーとなる国家が不在の世界を「Gゼロ」と名付け、2011年から複数の著書で示してきた。そして今回の新型コロナウイルス感染拡大は、「Gゼロ」の下で起きた最大規模の危機と位置付ける。

リーダー不在のなか、世界はこれからどのような変化と向き合い、いかなるリーダーが必要となるのだろうか――。

※本稿は『Voice』2020年8月号より抜粋・編集したものです。

取材・構成:津山恵子(ニューヨーク在住ジャーナリスト)

 

「Gゼロ」の世界で起きた初めての危機

――(津山)新型コロナウイルスによるパンデミックは、世界的危機として、どのような特徴がありますか。

【ブレマー】 新型コロナウイルスは、中国、米国、欧州、日本、そして開発途上国と、世界の隅々まで広がり、人びとの生活を大きく変えてしまいました。人命が失われただけでなく、世界のサプライ・チェーンと需給が一旦停止した。経済活動も急速に停止しましたが、その再開は異なる要素をつなぎ合わせる必要があるたいへんな作業です。この状況は、ワクチンが入手できるようになるまでずっと続きます。

今回の危機の規模は、私たちが生涯に経験した危機のなかで、明らかに最大のものです。また、世界的なリーダーシップ、国家間の協力体制がない「Gゼロ」の世界で初めての危機です。現在、国際的なワクチン開発の協力体制はなく、それどころか米国は世界保健機関(WHO)から撤退しようとしています。グローバルな協力ができないために、あらゆるレベルにおいて、危機に対応するために私たちができたこと・すべきだったことを実行に移せませんでした。米国では3カ月のあいだに10万人以上が死亡し、4,000万人が失業しました。さらに、今後どれほどの企業が破綻し、どれほどの雇用が失われるのか、人びとはまだ自覚していません。

――コロナ危機は、2001年9月11日の米同時多発テロや2008年の世界金融危機とどう異なりますか。

【ブレマー】 大きな違いは、過去の二つの危機はGゼロの前に起きた点です。同時多発テロのときは、米国主導の国際秩序がありました。なるほど、米国はイラク戦争やアフガニスタン紛争など愚かな行動を起こしたといえますが、それでも誰が責任を追い、どんな制度や仕組み、協力関係があるかについて、皆が当たり前のこととして認識を共有していました。事実、2008~09年の金融危機の際には、G20を発足させてうまく機能させています。

ところが今日、米国にリーダーシップはない。世界の誰もが知るように、トランプ米大統領は米国第一主義を唱えているではないですか。また、英国は欧州連合(EU)を脱退し、EUの将来的な存在意義は不安を孕んだままです。その一方で、ロシアは米国や西側諸国を躍起になって攻撃し続けている。アジアに目を向ければ、中国は国際秩序の構造において競争力を増すモデルをつくり出し、テクノロジー、貿易、さらには投資面にまでそのモデルを広げています。

では、新たな国際秩序がこれから構築されるのでしょうか。私はそうは思いません。それは私が、2011年からGゼロについて提唱し続けているからではありません。たとえば一部の米国人は、今年11月の大統領選挙でトランプ大統領を敗北させることができれば、従来の米国主導の秩序に戻ることができると信じています。しかし、重要なのは、元の状態に戻ることはできないということです。Gゼロはしばらく続く。そう認識しなければならないのです。

 

コロナで顕在化した貧困や所得格差

――世界はこれからどんな変化を迎えるでしょうか。

【ブレマー】 国際秩序における変化は、Gゼロとコロナ危機によってもたらされた傾向がさらに加速することだと考えています。今回の危機によって、今後3年間にわたり(経済的)成長と不平等の乖離はかなり加速するでしょう。グローバリゼーション及びグローバルなサプライ・チェーンの衰退、そして米中対立も劇的に加速します。つまり、Gゼロと、Gゼロを進行させるプロセスが、以前に予想したよりも速まるのです。

――パンデミックを抑えるためのグローバルな対策が、今後に備えて形成される可能性はありますか。

【ブレマー】 このたびのパンデミックは、私たちが協力態勢をとるべきだということ、そしてそれは不可能ではないことを明示しています。ただ、危機の最中に米中がより敵対的になり、米国もWHO撤退を発表し、どちらもタイミングは最悪です。医療用保護具(PPE)のサプライ・チェーンが必要な状況ですが、現状では手に入りません。人びとは中国を批判していますが、彼の国は新型コロナウイルスの発生を隠蔽しただけではなく、米国人や欧州人を犠牲にすることで、自国民を守るためにPPEをため込みました。それが実際に起きたことです。危機が地政学的な要素を帯びるほど、私はより悲観的な見方をしています。

――貧困や所得格差はコロナ危機以前から深刻な問題でした。それが今回、所得が低い人種ほど感染率や死亡率が高く、感染格差となって顕在化しました。

【ブレマー】 米国の失業率はいまや二桁で(編集部注:今年5月の雇用統計では13.3%)、このトレンドはしばらく続くでしょう。その結果、米国では失業者に対して給付金を出すという措置だけでなく、社会的なセーフティ・ネットを見直し、ユニバーサル・ベーシック・インカム(最低所得保障)を議論する流れへとつながると考えています。問題は、議論や対策がバラバラに行なわれるだろうという点です。現状では政府や自治体の予算が圧迫されていて、金融危機が起きた10年前に比べると十分な投資を行なうことができないからです。

――社会的弱者が今後ももっとも悪影響を受けるといわれていますね。

【ブレマー】 アフリカ系やヒスパニック系米国人のほうが感染する可能性が大きいというのは、驚くことではありません。健康保険やいい医師に恵まれませんし、自宅勤務ができず、健康のリスクを冒して出勤していた人も少なくない。

彼らに加えて経済的なダメージを受けるのは、今後職を失う労働階級、中間階級です。ハイテク企業が引き起こすディスラプション(破壊的創造)は、雇用と市民社会の崩壊につながっていきます。たとえば、食品流通業において、工場に出勤する人たちがウイルスに感染する恐れがあった場合、経営者はオートメーション化を進めるでしょう。ロボットはウイルスに感染しないからです。オートメーション化、人工知能(AI)、ビッグ・データの活用など、ハイテク企業によるディスラプションが、職場に戻れない人びとを今後生み出すのです。

私はこの問題が、人びとが考えるよりも重く、しかも長期にわたりのしかかってくると考えています。6月中旬時点で米国と欧州では死亡者数のピークは過ぎましたが、経済的ダメージのピークを乗り越えたとはいえません。多くの人にとって、経済再開はほど遠いのが実情です。過去数十年は潤っていた中間階級は、グローバリゼーションの衰退と国家主義の台頭の影響を受けて、雇用だけでなく復活のための資金や投資を自国内で失っていきます。

――ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ州知事など、所得格差をなくすために弱者のためのセーフティ・ネット確立に言及する政治家が出てきています。

【ブレマー】 格差の問題を優先事項だと捉える政治的リーダーが出てくるのは、自然なことです。問題は、米国は非常に豊かな国であるにもかかわらず、優れた富の分配システムについて未だに議論を続ける必要があるという点です。私はこの国を愛しているし、さまざまなチャンスも享受してきた。しかし私は子供時代、家が貧しく公営住宅で育ったのですが、米国には同じような環境の人がいまもいるのを思い知らされています。

したがって、民主党であれ共和党であれ、それとも米国のシステムそのものであれ、いかなる政治的リーダーが優先する政策を私がサポートしようとも、私自身がその政策がもたらす希望を人びとに説明するのが難しいのです。世界にはこれだけ裕福な国が存在しながら、自分たちが掲げてきた価値が機能すると国民に強くいえる政府は少ない。それが現実なのです。

 

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