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イアン・ブレマー氏が語る「リーダー不在の世界に起きる変化」

2020年10月20日 公開
2020年10月20日 更新

イアン・ブレマー(国際政治学者/ユーラシア・グループ創業者兼社長)

政治を排除したリーダーが国家を一つにした

――新型コロナウイルスによる危機では、ドイツのメルケル首相など感染拡大をうまく抑えた首脳もいました。

【ブレマー】 今後も優れた仕事をしていくであろう国家のリーダーが何人かいます。彼らが今回の危機と真剣に対峙し、うまく統治したからです。

文在寅氏が大統領を務める韓国は日本と異なり、接触追跡を徹底し、隔離を早い段階で行ない、検査を積極的に実施して非常にうまく危機を乗り切った。韓国国民はそう評価したために、4月の総選挙で与党が圧勝し、文氏は多くの分野において推進したい政策を実現しやすくなりました。

ドイツのメルケル首相の場合は、じつはシリアから難民を受け入れると約束したことで、彼女のレガシーが傷つき、回復が難しくなっていました。ところが、コロナ危機への対応が評価され、いまや支持率が80%に達し、彼女は自分が思い描く将来のドイツ政府を築く道筋を確実にしたのです。

小国でもニュージーランド、ベトナム、ウルグアイ、ノルウェーなどは、リーダーシップのお陰でコントロールがうまくいったと評価できます。危機をうまく収めたリーダーには共通点があります。まず、彼らは科学を使って国民を率いて、政治的な理由を対策の根拠にはしませんでした。政治を排除したために、彼らは国家を一つに結集させることができたのです。早い段階から危機に真剣に取り組み、楽観視せず、冷静でした。とはいえ国によって異なるアプローチがされたのも事実です。ベトナムは接触者を追跡し、韓国は積極的に検査を実施、ドイツは医療制度の充実に躍起になりました。結果的に各国に共通して有効だったのは、マスクの着用、社会的距離の確保、検査数の拡大、そして緊急経済対策です。米国でさえ連邦準備制度理事会(FRB)、連邦議会、トランプ大統領が一体となって、緊急経済対策や給付金を早い段階で打ち出しました。とくにFRBの動きは、他の国に比べると素晴らしかった。しかし米国は医療制度と検査の体制で、大きく劣っていたのです。

今回の危機に際して、あらゆる分野で満点を得たリーダーは存在しません。ただし特徴をあげるならば、有無をいわせない、現実的なリーダーシップがものをいいました。

――国家首脳以外に、たとえば米国で優れたリーダーシップを示した人物はいますか。

【ブレマー】 カリフォルニア州のギャビン・ニューサム州知事(民主党)とオハイオ州のマイク・デワイン州知事(共和党)、イリノイ州シカゴのローリ・ライトフット市長(民主党)は、非常に効果的に仕事をしました。また、企業のトップでも非常に印象的だったのは、ウォルマートのダグ・マクミロン最高経営責任者(CEO)です。企業として正しいメッセージを発信するため社員を一つにまとめ、新規に人も雇い、社員と消費者など関係者に気を配りました。アマゾンのジェフ・ベゾスCEOは、それほどでもありませんでしたね。

私も個人としてニューヨークのロックダウンのあいだ、良い結果を出すように努力しました。SNSやストリーミングの番組などを使って市民に建設的な視点を提供し、啓蒙し、パニックにならないようにと伝える役割を果たそうとしたのです。過去数カ月、多くの政府関連のリーダーたちとオンラインで、従来になかったほど話をしました。彼らが、何をしたらいいのか知りたがっていたからです。私は彼らとの対話にかなりの時間を割きましたが、それはここに至る考察に大いに役立っています。

――新型コロナ危機後のGゼロに、たとえば「Gゼロ2.0」などの名称をつけるお考えはありますか。

【ブレマー】 ありません。Gゼロが続いていることがわかっているかぎり変える必要はないと思っています。

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