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調教師・矢作芳人氏の眼「コントレイルにはまだ眠れる力がある」



2020年10月23日 公開

矢作芳人(調教師)

矢作芳人調教師とコントレイル

異端の調教師、矢作芳人氏が育てる馬はなぜ勝ち続けるのか。

2019年度のJRA代表馬に選出されたリスグラシューをはじめ、矢作厩舎(やはぎきゅうしゃ)が輩出した馬の強さは圧倒的である。史上7頭目になる無敗での二冠を達成し、「無敗三冠」誕生なるかファンや関係者から熱視線を集めるコントレイルもまた、矢作厩舎である。

本稿では月刊誌『Voice』2020年11月号に掲載された矢作芳人氏のインタビューより、馬を見る重要な視点について、そして矢作氏のコントレイルへの思いについて触れた一節を紹介する。

 

良い馬を見つけ出すため、血統以上に重要なのは「相馬眼」

――矢作厩舎の調教方法や戦略は、異色だと言われています。他の厩舎とどういった部分が違うのでしょうか。

「馬の仕入れ」「馬の出し入れ(入厩と退厩)」「レース選び」が何よりも重要です。走りの弱い馬であっても、適性を見極め、どういった馬が出馬するか、どのような条件のレースに出せば勝ちに近づけるかの研究を徹底的に重ねる。

一般的には、レースの「連闘」を避け、馬に数週間の休息を与える厩舎が多いとされますが、肉体的疲労さえしっかりとケアしていれば、連闘も問題ないと考えています。

――よい馬を見極める着眼点を教えてください。

競走馬はサラブレッドとして、いわば「レースに勝つため」に人間につくられた動物ですから、まずは血統を重視します。両親や兄弟がどのような成績を残し、遺伝子を受け継いでいるかを調べ抜きます。

言うまでもなく、体や血統がよければ値段も相応にあがります。安い馬で数百万円、最高峰になれば数億円はくだらない。しかし高値の馬を買えばいいのではなく、馬主の予算の範囲でベストな馬を見つけ出す力が不可欠です。

また血統以上に大切なのは、仔馬を見た瞬間に総合的にいい馬か否かを調教師が判断する力、いわゆる「相馬眼」です。人を採用する際にも、仕事を進めるうえでその人物の欠点が支障にならないか、はたまたそれを上回るような長所があるのかを見抜く必要がありますね。

同様に、品種改良によって完璧に近いかたちにつくられた馬でも欠点は必ず存在します。それが競走能力に影響するのか否かを見極めるのです。

――馬体の良し悪しもレースに影響しますね。

もちろんです。脚の腱や筋、骨、さらには開き幅や爪の大きさなど、あらゆる部位を観察し、いかに故障しない姿勢に近いかを総合的に判断します。

また、馬の「顔」も重要な判断要素です。瞳のなかに宿る芯の強さや輝き。そうした仔馬が本来生まれもった要素は、厳しい訓練やレースのプレッシャーに耐えられるかどうかの指標の一つです。

とはいえ確率論で、良馬と判断しても、すべてのレースを100%完璧に走りきれるわけではない。裏を返せば、良い血統ではない馬体の勝率が0%ということもない。活躍できる馬をいかに育成するかは、調教師の腕にかかっています。

 

馬の“性格”を捉え、騎手の特性に合わせて育成する

――馬によって性格の違いはあるのでしょうか。

気性の荒さやストレス耐性、「やる気スイッチ」の入り方など、1頭ごとに異なります。短距離や長距離、または芝コースが得意な馬もいれば、ダート(砂)コースに有利な馬もいたりと、向き不向きも変わってくる。

なかには、生まれつき優秀でエリートコースを歩む馬がいますが、今回ダービーで優勝したコントレイルも、父にディープインパクトをもつ良血統馬で、絵に描いたような優等生。人間に対して従順で、オンとオフがはっきりしている。

一方で、不真面目だったり、人間に噛みついたり、突然蹴り上げたり、あるいは練習を怠けたりする不真面目な馬もいます。そういった子たちには、根気よく「考え方」を教えていかなければなりません。

「併せ馬」といって、いい馬と一緒に行動させる方法もその一つです。馬は集団性の強い動物なので、周囲の行動に倣う。優秀な先輩馬と一緒に走らせて、必死についていかなければならない状況をつくり出し、「頑張ってついていかなきゃ」と闘争心を生み出させるのです。

反対に、「頑張りすぎてしまう」性格の馬もいます。現役最強牝馬として名高いアーモンドアイ、そして矢作厩舎にいた先輩ダービー馬・ディープブリランテも同様のタイプでした。

手綱を引いてブレーキをかける岩田康誠騎手と、前へ前へと走りたがるディープブリランテ。競馬では、騎手の反応に対していかに従順かが勝敗の肝になりますが、この馬は人間の制御が利かない。必要以上に力を出しすぎると、体力を消耗し、本当に馬力を出さなければならない最後の直線で失速してしまいます。

なかには、馬との相性を考えて騎手を替えるべきではという声も上がりました。しかし私は、「岩田騎手で折り合うように馬をつくるのがスタッフの仕事だろう」と従業員を鼓舞し、騎手と力を合わせて馬の癖を修正していきました。

騎手の指示を伝える手段として、鞭(むち)を連想する方が多いかもしれませんが、最も重要なのは、馬の口の中に装着する「馬銜(はみ)」です。

この「馬銜」から手綱を通して操作するわけですが、その際に緩急の付け方を変えます。加速するときは強め、反対に力を抜くときは緩める。そうして馬は、「いまはまだ抑えてもいい。ここから全力疾走する」と力の出し方がわかるようになるのです。

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