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「大阪都構想」消滅…勝敗を分けたメディアの“反対派記事”攻勢

2020年11月04日 公開
2022年01月13日 更新

竹内謙礼

 

賛成派は若年層を取り込みきれなかったか

前回の住民投票よりも13万人増えた18歳以上の被選挙権のある若年層を、ネットを通じて取り込めなかったことは、賛成派にとって大きな誤算だったのではないか。

実際、若い世代の賛成票が少なかったデータも出てきており、反対派のネット上の情報が、賛成派の情報よりも説得力があったことは、事実として受け止めるべきである。

一方で、賛成派と反対派が僅差だったことを考えれば、賛成派のジャーナリストや有名人があと数人いて、さらにいくつかのWebニュースを味方につけていれば、賛成と反対の数はひっくり返っていたのかもしれない。

しかし、メディアは中立な立場であることが大原則だ。よほど編集者や新聞記者に対して太いパイプを持っていなければ、メディアをコントロール下に置くことはできない。

また、行政の施策に対してイエス・ノーの意見を述べることは、その人のイメージにも影響を与えてしまう。政治活動において、著名人を味方につけることは非常に難しいのが現状である。

歴史の浅い政党である維新の会では、ネットで発言力のある著名人を味方につけることができなかったことも、今回の敗因のひとつと言えるのではないか。企業からの献金を受け付けない政党だけに、組織票を作ることができなかったことも、最後の一押しの票が伸びなかった要因と言える。

行政は何が正解で何が不正解なのか時間が経たなければ分からない。今回の住民投票の結果が、今後の大阪にどのような影響を与えるかは、現時点では予測することはできない。

ただ、ひとつだけ言えることは、これからの選挙や住民投票には、ネットの戦略が大きく関わってくるということである。

投票において、主張が正しいか正しくないかというのは、実はあまり関係がなく、その主張が、浮動票の有権者に効率よく伝えられるか、伝えられないかが重要になってくる。その浮動票の人達が参考にするメディアがネットであり、このネットの情報をうまくコントロールできる政治家や政党が、票を稼ぐことになる。

SEOやSNSはもちろん、Webニュースとの交渉や、リアルとネットを繋ぐOtoOを意識した情報発信まで、ネット戦略をトータルでプロデュースできる政治家や政党が、これからの行政を担っていくことになりそうだ。

従来からある古い選挙戦のやり方だけではもう通用しない。ネットビジネスの専門家を招聘して、議員を集めて勉強会やディスカッションをしていく流れは、今後、活性化していくと思われる。

コロナ禍で注目を集めるデジタルトランスフォーメンションの流れは、ビジネスの世界だけでなく、選挙の世界にもなだれ込んできている。

 

破れてもなお維新の会が支持される理由

今後の維新の会はどうなるのか。

一丁目一番地の大阪都構想が消滅し、カリスマ性のある松井市長は任期満了を持って退任する。記者会見の口ぶりから、吉村知事は政治の世界から身を引く可能性のほうが高いように思われる。維新の会が衰退の道を辿るのではないかというメディアの論調も多い。

ただ、現状維持バイアスがかかりやすい今回の住民投票において、過半数近い賛成票を得られた維新の会は、やはり関西地区で強いことは改めて証明されたといえる。

おそらく、大阪都構想がなくなっても、再び新たな改革案を打ち出して、今後も与野党にとって厄介な存在であり続けるだろう。「しつこい」と言われても、かたくなに主張を曲げず突き進むことができるのが、良くも悪くも維新の会が関西で支持されている理由の一つでもある。

そもそも大阪は情に脆い街だ。住民投票で負けた維新の会に対して、「次回は応援しよう」と思った人たちが、次の統一地方選挙で維新の会に勝たせるという流れは、実は2011年からずっと続いている。

もちろん、住民投票と統一地方選挙はまったくの別物だが、この勝ったり負けたりが交互に入れ替わる行政が、もし、大阪に存在するとすれば、仮に今回の住民投票で勝っていたとしても、次の衆院選で維新の会が負けていた可能性が高い。

非常に幼稚な仮説ではあるが、そういう意味でいえば、今回の住民投票の惜敗は、維新の会が地方政党から国政政党に大きく変わるチャンスに繋がるかもしれない。

 

今あらためて振り返るべき「大阪都構想」

最後にもうひとつ。

今回の住民投票に向けて、私の読んだ『やさしく解説!すっきりわかる!大阪都構想』は、非常に分かりやすく、今回の大阪都構想についてまとめている。

維新の会が無謀ともいえる住民投票にチャレンジして、大阪で何をしようとしていたのか、そして今の日本がどのような問題を抱えていて、どういう解決策があるのか、丁寧に解説されている。

読み終わった直後に思ったことは、この大阪都構想を描いた人たちは、「面白い」という一言だった。政治家が考えたのか官僚が考えたのか知らないが、よくも行政に対してこんなに真剣に、そしてユニークに物事を考えられるものだと感心した。

仕組みとしてはよく考えられているし、この方法以外に大阪を復興させる策はないというのが、読後の率直な感想だ。

もちろん、反対派の人達が読んだら「嘘ばっかりだ!」と辛辣な言葉で怒られるかもしれない。実際、維新の会の東参徹議院議員が執筆した本なので、内容に偏りがあるのは事実である。

ただ、今回の投票で「反対票を入れて本当によかったのか?」「賛成票を入れて本当に良かったのか?」「投票に行かなくて本当に良かったのか?」と、モヤモヤした気持ちを抱えている人にとったら、非常に面白く読める内容だといえる。

ただ、この施策を一言で市民に理解してもらうことは非常に難しいと思った。それと同時に、この本の内容が住民投票前に、少しでも多くの人に知ってもらっていれば、今回の結果は大きく変わっていたのかもしれないという思いもよぎる。

まさに"後の祭り"の本ではあるが、今回の住民投票が何だったのか振り返るためには最適な書籍といえる。大阪都構想が本当に“構想”で終わってしまった今、住民投票の余韻に浸りたい賛成派、反対派、中立派、大阪市外、他県在住の人に、じっくり読んでもらいたい一冊である。

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