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「右派」vs.「左派」では、もはや世界は読み解けないワケ

2020年11月25日 公開
2022年03月02日 更新

茂木誠(駿台予備学校世界史科講師)

 

「右派=国家」「左派=個人」の矛盾が混乱を生む

大きな政府を志向する民主党的、ルーズヴェルト的リベラルは、個人の自由を最大限に尊重する古典的リベラルとは真逆です。そのため古典的リベラルを志向するアメリカ人は、「リベラル」という言葉を嫌い、新しい言葉を使い始めます。

それが「リバタリアニズム」です。この思想を支持する人々を「リバタリアン」と呼びます。リバタリアンは、あらゆる国家の統制や規制に反対する人たちです。

銃は規制するな、重税も反対、福祉も必要ない、国家は治安維持だけやっていればいい。とにかく、個人の生活に干渉するな、という「小さな政府」を志向する、究極の自由主義者です。

アメリカでは世界恐慌以降、左派であるリベラル(民主党)が、大きな政府による平等分配を志向するようになりました。すると今度は、対抗する右派の保守(共和党)が、ニューディール政策に反対します。

「あんな政策は、ソ連の官僚統制経済となんら変わらない。国家権力の強大化は、個人の抑圧を招く。我々は認めない」と。

そして、「個人の自由を尊重し、福祉は最小限に抑えて減税を要求する。小さな政府を求める」というリバタリアンの思想が生まれました。これは19世紀以来の開拓農民の思想であり、アメリカにおける「保守主義」「右の思想」なのです。

このように、リベラルと保守の意味が逆転したまま現在に至り、日本でも直輸入されて使われています。

リベラルの人たちが、口を開けばやれ人権だ、国家統制をやめろ、と主張しながら、目指している方向は大きな政府、巨大な官僚機構、統制経済であり、中国の独裁と人権抑圧の体制には口をつぐむのはこういうわけです。こうした矛盾は、リベラルと保守のねじれが原因です。

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