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乃木坂46・鈴木絢音が“国語の神様”と熱く語った「国語辞典の魅力」

2020年12月12日 公開

金田一秀穂(杏林大学教授)&鈴木絢音(乃木坂46)

金田一秀穂&鈴木絢音
写真:吉田和本

乃木坂46屈指の読書家として知られる鈴木絢音さん。アイドルでありながら、普段は分厚い国語辞典を持ち運んでいるというから驚きだ。国語辞典で「読書」や「恋愛」を引くと、その語釈には意外な意味があった。多くの辞典の編纂に携わり「国語の神様」と呼ばれる金田一秀穂教授と鈴木さんが、言葉の深淵を探る。

※本稿は『Voice』2021年1⽉号より⼀部抜粋・編集したものです。

 

国語辞典に垣間見える「人間味」

【鈴木】このたびは貴重な機会をいただき、ありがとうございます。テレビでもよく拝見していた金田一先生とお会いできて、恐縮しています。

【金田一】ありがとうございます。乃木坂46のことに特別に詳しいわけではないのですが、秋元(康・作詞家兼プロデューサー)さんとは「ラジオ深夜便」(NHKラジオ)でご一緒するなどお付き合いがあります。

(姉妹グループである)欅坂46(現在は櫻坂46に改名)のお話もよくされていましたね。鈴木さんは先日、写真集も発売されたとうかがいましたが、忙しくされているのでしょう?

【鈴木】いえいえ……。でも10月には『銀河鉄道の父』という舞台にも出演させていただくなど、ありがたいことに、さまざまなお仕事に取り組んでいます。

【金田一】『Voice』に掲載されたインタビューも読ませていただきました(2020年11月号「本が私と家族をつないでくれた」)。国語辞典を読むのがお好きなようですね。私も多くの辞典の編纂に携わってきたものですから、嬉しく思いました。乃木坂の活動ではいろいろな現場に行くと思いますが、いつも分厚い紙の辞書を持ち運んでいるのですか?

【鈴木】はい、普段から鞄のなかに入れています。

【金田一】それは凄い(笑)。あくまでも、電子ではなく紙なんですね。

【鈴木】中学時代は電子辞書も使っていたんです。でも、高校にあがるタイミングで(故郷の)秋田から上京することになり、その電子辞書を兄にあげてからは、紙の辞書を何冊かもつようになりました。

【金田一】へぇー、いまどき珍しいですね。私が大学で教えている学生たちは、ほとんどがスマホ。電子辞書ですら、あまり使われていないんじゃないかな。

【鈴木】辞書を入れているせいか、私の鞄はアイドルらしからぬ大きさなんです。乃木坂のメンバーからはメリー・ポピンズ(ディズニー映画『メリー・ポピンズ』の主人公。いつも大きな鞄を持ち運んでいる)みたいって、よく言われます(笑)。

【金田一】素晴らしいことですよ(笑)。とくに鈴木さんのような若い世代では稀有でしょうから、これからも続けてほしい。数多ある辞書のなかでも、とくに『新明解国語辞典 第7版』(三省堂)がお気に入りのようですね。

【鈴木】そうなんです。辞書って、昔の私もそう考えていたのですが、客観的な語釈が書かれているイメージだと思うんですね。でも、『新明解』はまったく違いました。多くの単語に主観的な説明が添えられています。読めば読むほど面白くて、惹かれていきました。

金田一先生が読んでくださったインタビューでも紹介したのですが、たとえば『新明解』で「蛤(はまぐり)」を引くと、「遠浅の海にすむ二枚貝の一種。食べる貝として、最も普通で、おいしい。殻はなめらか」と出てきます。

「普通」とか「おいしい」という説明は、人によって解釈が分かれるはず。そんな言葉が語釈で使われているとは、『新明解』を手にとるまでは思いもしませんでした。

【金田一】いま鈴木さんが例に挙げた「蛤」のような語釈は、辞書をつくる側の世界では「プロトタイプ(典型的な基本形)」と呼ばれます。貝のなかで最も一般的なものは何かと考えて、当時の編纂者は蛤を思い浮かべたのでしょう。

【鈴木】なるほど。私個人の感覚だと、蛤は「普通」と表現するには美味しすぎる気がしますね。でも、じゃあ「普通の味の貝は何か」と言われると困ってしまいます。あさりやホタテが頭に浮かびますが……。

【金田一】では、違う例も考えてみましょう。「野菜」といえば、何が真っ先に思いつきますか?

【鈴木】トマトでしょうか。味が普通というよりは、むしろ私があまり好きではない野菜なので、印象が強いのかもしれません。よく食べる野菜といえばレタスなのですが。

【金田一】私の場合、野菜の典型としてまず思いつくのはネギなんです。このように、何をイメージするかは世代や出身地域、経験によっても異なります。また、人によっては「野菜=子供が嫌い」というイメージから連想するでしょう。

そうした要素を考慮しながらプロトタイプを選ぶのですが、最終的には「蛤」のように編者の好みが表れることも少なくない。随所に「人間味」が垣間見えるところが、『新明解』の語釈の魅力であり、鈴木さんが惹かれたところだと思います。

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