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台湾の「天才デジタル担当大臣」がドラえもんの“コスプレ”をした理由



2020年12月28日 公開

オードリー・タン(台湾デジタル担当大臣)

オードリー・タン氏

新型コロナ禍が世界を襲うなか、封じ込めに成功したのが台湾である。蔡英文政権でデジタル担当大臣を務めるオードリー・タン氏は、近隣店舗のマスク在庫を把握できる「マスクマップ」の開発を主導したことで国内外から称賛された。国難を救った世界の知性が、台湾の新型コロナ対策の「勝因」を語る。

※本稿は『Voice』2021年1⽉号より⼀部抜粋・編集したものです。

取材・構成・写真:栖来ひかり(台湾在住ライター)

 

自らドラえもんに扮して情報提供する大臣

――(栖来)台湾では"唐鳳大神を召喚する"という言い回しがあります。日本でもいまあなたはとても人気で、まるで古代日本の行く末を占った卑弥呼の現代版のように、誰もがあなたの意見を聞きたがっています。そうした役割をどう感じていますか?

【タン】私の考え方を多くの人に広くシェアできるのは、もちろん嬉しいことです。このインタビュー記録も、PDIS(唐鳳オフィスのデジタル空間)ですべて公開されます。そうしているうちに、ときに思いもよらない創造的な出来事に繋がることもある。

たとえば、日本のDos Monosというヒップホップグループが5月に発表した作品に、私のインタビュー音声がサンプリングされて使用されました。私の試みが何かしら創造的な活動に役立つなら、と楽しんでいます。

――台湾は「新型コロナ対策に最も成功した国」と世界から称賛されています。デジタル担当閣僚としての立場から、現時点での「勝因」をどう考えていますか。

【タン】政府が市民を心から信頼したこと、そして共同体の構成者が共に「防疫」に専念し、コミュニケーションの問題に向き合うソーシャル・イノベーションをつくり出したことが挙げられます。

多くの国では国民を信頼できずに、ロックダウン(都市封鎖)をはじめとする高圧的な手法がとられました。顕著にみられたのは、誤った情報がネット上で飛び交う「インフォデミック」です。これが起こると、政府は国民をさらに信頼できなくなり、ますます高圧的な対策をとる悪循環に陥ります。

しかし台湾は真逆でした。我々はインフォデミックに対抗するために、保健省に勤務するスタッフが飼うかわいい柴犬をマスコットに起用しました。このマスコットを通して政府からの情報を提供したり、私自身も「ドラえもん」に扮して情報提供に努めたりしました(笑)。

愉快な情報は、脅しや怒り、不愉快な噂よりも速く伝わるものです。たとえば、国民がマスクを手に入れるために必要な情報を広く確実に伝えたいとしましょう。

その情報をユニークな画像に加工してソーシャルネットワークで共有すれば、人びとがそれを面白がるほど画像は速く広くシェアされていきます。しかも情報どおりにマスクが手に入ることで信頼感が生まれる。人びとは信頼の置けない情報には自然と興味を失います。こうなればしめたものです。

――私もコロナ禍を台湾で過ごすなかで、政府からさまざまな共感や愛情を感じとり、共に防疫に取り組もうと思うことができました。政府にとって、コロナ対策の原動力は何だったのでしょうか。

【タン】「2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)のときのような状況を繰り返すわけにはいかない」との強い思いがありました。当時は中央政府と地方自治体が異なる情報を発信しており、状況は混乱そのものでした。

さらに病院が急に封鎖されるなど、人権侵害に関する予期せぬ事態も次々と起きてしまった。おそらく30歳以上の方であれば、当時の悲しく恐ろしい記憶が脳裏に焼き付いていることでしょう。

政府は2003年の社会における信頼感の欠如が骨身に沁み、それ以降は年々、感染症対策のアップデートを重ねていきました。そして今回の新型コロナにはうまく対応することができたと思います。

――SARSでの経験がいかんなく活かされたと。

【タン】過去から学ぶことは我々をより早く成熟させてくれます。フェイクニュースに関してもそうです。

台湾で2016~18年をピークに情報戦が繰り広げられたとき(2018年11月の台湾統一地方選に向けて、蔡英文政権に批判的な中国がフェイクニュースやスパイ工作などで圧力をかけたと指摘されている)、政府が言論を取り締まって収束をめざすべきという意見も散見されました。

しかし締め付けを厳しくすることは、問題を水面下に移動させるだけです。同じような状況は、今回のコロナ禍でも起こりました。夜の店で感染が発生し、「すべての店を閉店させろ、懲罰を与えろ」と一部の世論は盛り上がりました。

しかし、台湾のCECC(中央感染症指揮センター)はそうした強硬策はとらなかった。問題が地下に潜ってしまえば、ついにコントロールが利かなくなります。どんな問題であれ、政府から見えなくなってしまえば解決することはできない。情報を透明化し、コミュニケーションによって対処することが重要なのです。

私たちがめざすのは、社会の創造性を通して物事を実現する仕組みです。たとえばソーシャル・イノベーション・ラボ(台湾台北市)やトレンドマイクロといった企業、PTTというインターネット掲示板のような民間サークルが、いまでは安定した力として作用しています。

大企業や政府に限らずそうした民間のパワーが、問題が起こった際の初期の警告者となり、中期の防衛者となり、そして解説者という役割を請け負ってくれます。

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