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俳優・吉田鋼太郎「表現者が世間の声に怯えている状況は“異常”」

2021年01月07日 公開
2021年07月29日 更新

吉田鋼太郎(俳優)

 

“オンライン主流”の生活に、俳優が感じる疑問

――共演者の柿澤さん以外にも、普段から若手俳優との交流が深い吉田さんですが、最近の俳優にはどんな印象を抱いていますか。

【吉田】待ち時間の楽屋で若手俳優と話すと、衝撃を受けることがあります。彼らは若いときの私と違って、いまの世の中を真摯に受け入れ、どう対処していくかを考えている。

根本的にものすごく優しく、人を非難しません。仮に誰かに対して反論する場合でも、極力肯定的な発言をしながら、その言葉のどこかに自分の主張を込めているんです。ものすごい技術ですね。

私は気を遣わず何をいってもいい時代に生きていたので、この空気感にはまだ馴染めません(苦笑)。

もうひとつ驚いたのは、「どんなときに怒るの?」と聞くと、「怒ることがない」といわれたときです。ほかにも、「休みの日は何をしているの?」と質問すると、「ゲーム」と返ってくる。

ずっとゲームをして、オンライン上で人と繫がって交流しているそうです。彼らにとっては、誰かと直接会って腹を割って話したり、怒ったり泣いたり、仲直りしたりといった時間よりも、ゲームをしているほうがはるかに幸せなのかもしれません。

リアルな世界で人間同士が絡むと何か摩擦が起きてしまうので、それならば人と距離をとって、平穏に暮らすほうがいい。そう考えているように僕には映るのです。

もちろん、どんな趣味や考えをもとうがその人の自由です。ただあえていえば、人の感情を表現しなければならない俳優が、人と深く関わらずに血の通った演技ができるでしょうか。

恋愛をすれば、普段は感じない感情の振れ幅を経験できます。その体験があるからこそ、実感を伴った経験として自分のなかに落ちてくる。オンラインだけでは、リアルで培う深い関係を築くのは難しいように思えてなりません。

 

■『スルース〜探偵〜』
作:アントニー・シェーファー 翻訳:常⽥景⼦ 演出:吉⽥鋼太郎
出演:柿澤勇⼈、吉⽥鋼太郎
公演:2021年1⽉8⽇(⾦)〜 東京・新国⽴劇場 ⼩劇場にて
   その他、大阪、新潟、仙台、名古屋公演あり

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