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”台湾の頭脳”オードリー・タンも認める日本人開発者…その実績と思考

2021年01月16日 公開
2022年07月01日 更新

関治之(一般社団法人コード・フォー・ジャパン代表理事)

 

「悪い部分があるなら変えればいい」

――関さんは2013年10月にコード・フォー・ジャパンを設立しました。何がきっかけだったのでしょう。

【関】僕の活動の原点は、2011年3月の東日本大震災です。それまでもエンジニアとして活動してきましたが、当時はテクノロジーで社会問題の解決を目指す「シビックテック」への意識は強くありませんでした。

震災が起きたとき、「エンジニアとして何か自分にできることはないか」と思い、情報収集サイト「sinsai.info」を立ち上げました。被災地のどこで何が起きているのかの情報を地図化したもので、これもオープンソースです。

ただ、当時は市民がテクノロジーを活用して自ら手を動かす機運がいまよりも薄かった。寄附やボランティアの動きは高まっていたけれど、市民と行政が連携して課題を解決するところまで落とし込めていませんでした。

何かあれば「国や自治体がやってくれない」と不満を漏らすのではなく、誰もが「つくる側」に回れる社会にしたい。そう考えてコード・フォー・ジャパンの設立に至りました。

――たしかに我々は、地域で課題が出ると「行政がやってくれて当たり前」と思いがちかもしれません。コード・フォー・ジャパンを設立した2013年以降、市民による課題解決の動きは高まっていると感じますか。

【関】かつてよりだいぶ社会の雰囲気が変わってきているとは思います。とくに最近コード・フォー・ジャパンで活躍している高校生や大学生の若い世代には、「行政は駄目だ」と諦めるのではなく、「悪い部分があるなら変えればいい」と前向きな見方をもつ人が増えています。

彼ら彼女らの世代がもっとポジティブに活動できるようになれば、日本はより生き生きとした多様性をもつ社会になるのではないでしょうか。

――今回の新型コロナで、コード・フォー・ジャパンは東京都と連携しました。ほかにもこれまでに数々の自治体と共に活動していますが、行政ならではの制約も多いのではないでしょうか。

【関】そうですね。法的な縛りやスピード感といった課題もありますが、何よりも感じるのは「失敗は許されない」という空気です。何かミスがあるとすぐ炎上してしまう時代ですから、どうしても失敗を避けようとしてしまう。

新しいことに挑戦しなければ当然、イノベーションは生まれません。行政をただ批判するのではなく、市民が中・長期的な視点をもって共に成長していく。そうした雰囲気をつくり上げていくことをコード・フォー・ジャパンは目指しています。

――SNSの普及によって情報発信がスムーズになった半面、同調圧力の高まりも指摘されています。

【関】ご指摘のとおり、SNSには功罪の両面があります。これまでなら隠されていた情報が透明化されたり、マイノリティの声が増幅して届きやすくなったりした効果はあるでしょう。

一方で、SNSは冷静な議論には向いていないメディアです。とくにツイッターは、個人が自らの主張をぶつけ合うだけで、双方の歩み寄りがほとんど見られない。客観的に事実を整理するとか、相手を理解したうえで対案を出して議論を積み上げていくアウフヘーベン(止揚)が必要です。

そうした問題意識もあり、コード・フォー・ジャパンは2020年10月、兵庫県加古川市と提携してオープンソースの参加型民主主義プラットフォーム「Decidim」の導入を決めました。

ICT(情報通信技術)を活用して市の課題解決に取り組む「スマートシティ」の先進地である加古川市で、地域住民が自ら政策立案に参加する試みです。Decidimはスペイン・バルセロナ市をはじめ世界30以上の自治体で導入されていますが、日本では加古川市が初めてです。

「スマートシティ」といっても当然、地域住民のためにならなくては意味がありません。そこで僕たちは、要望ではなく市民自らが政策に参加する意味を込めて「DIY(Do It Yourself)都市」というコンセプトを掲げています。

デジタルの活用はもちろん、幸福度を指標とした新たなまちづくりを実践していくつもりです。

 

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