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肥満児の割合が全国トップ級になった福島県が示すもの

2021年02月16日 公開
2022年10月20日 更新

開沼博(社会学者)

開沼博『日本の盲点』

コロナ禍や震災のような社会危機が生じた場合、社会の脆弱な部分はさらに脆弱になる。では「脆弱ではない部分」はどうなるか。社会学者が危機による格差の拡大、「近代化」の加速を論じる。

※本稿は開沼博『日本の盲点』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。

 

危機は脆弱な部分をさらに脆弱にさせる

新型コロナウイルス問題の今後について、3・11をはじめこれまでの世界史的社会危機の歴史を振り返っていえるのは、今後の社会の変化が大きく「格差」と「加速」、二つの方向に向けて起こるということだ。

社会危機が人びとの脅威となるのは、もちろん戦争・災厄・疫病そのものによる直接的な被害によるものもあるが、より大きな被害は潜在化していた格差が顕在化したところに生まれる。社会の脆弱な部分のさらなる脆弱化とも換言できる。

3・11後の福島では、原発事故由来の被曝を回避しようと子どもたちの行動がさまざまに制限され、子どもたちは屋内に引きこもって遊ぶようになった。その結果、肥満児の割合が全国トップレベルになり、体力テストの結果も顕著に悪化した。

子どもほど回復力のない高齢者の場合、それは生命の危機に直結する。避難生活のなか、それまでの運動習慣や人間関係が壊れると急速に体力を失う。アルコールなどへの依存傾向やDV、それらの前提となる鬱傾向も悪化する。

福島県では避難の継続のなかで心身に不調をきたして亡くなった人など関連死者数は2020年4月現在2306名。地震・津波で直接亡くなる直接死の1605名を大きく上回り、いまも増え続けている。

コロナ禍による擬似的な避難状態が長期化すれば、年齢では子どもや高齢者に、地域的には地方部・過疎地に、経済的にいえば経営体力の蓄えが相対的に少ない事業者、業界にこそ深刻なダメージが生まれる。

一方、話が込み入ってくるのは「脆弱ではない部分」の動向だ。社会危機というと、90年代のバブル崩壊後の山一證券経営破綻のように何か象徴的な強者にみえるものが破滅するイメージと強く結びついているだろう。だが現実はより複雑だ。

リーマンショック後、「もはや世界経済の中心としての米国は終わった」と悲観した者は少なくなかっただろう。しかし、シェール革命やGAFAの台頭があり、たいした時間もかからぬあいだに、何もなかったかのように、米国はその政治・経済・文化的な力量を誇示し直している。トランプ政権誕生や米中対立のような危うさもとり込みながら。

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