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「ワクチン有効率60%」でも6割の人に効くわけではない…誤解されがちな用語の真の意味

2021年06月02日 公開
2022年10月12日 更新

中西貴之(サイエンスコミュニケーター)、宮坂昌之(大阪大学名誉教授)

中西貴之、宮坂昌之

「有効率」「副反応」「有害現象」など、ニュースやSNSでよく目にする一方で、その本来の意味はあまり理解されていない用語の数々。勘違いされたままセンセーショナルに拡散され、過剰に不安を煽っているケースも少なくない。

本稿ではクチンの話をできる限りやさしく噛み砕いた書『今だから知りたいワクチンの科学』より、ワクチンに関する情報を冷静に読み解くために知っておきたい用語の意味について触れた一節を紹介する。

※本稿は、『今だから知りたいワクチンの科学ー効果とリスクを正しく判断するために』(中西貴之・著、宮坂昌之・監修技術評論社 刊)より一部抜粋・編集したものです。

 

勘違いしやすい「ワクチンの有効率」の意味

ワクチンには有効率とよばれる、効果の目安となる数値があります。

計算式は次のとおりです。

ワクチンの有効率(%)={(非接種者の発症率-接種者の発症率)÷非接種者の発症率}×100

有効率の解釈には注意が必要です。よくある勘違いは「ワクチンの有効率60%」と聞いたとき「100人がワクチン接種をしたらそのうちの60人に効果が出て発症しない」と考えるものです。

有効率は、そのような意味ではありません。有効率が60%を例にとって、その数値がどのような意味を持つのかを説明します。

まず、ワクチンを接種した人100人と、接種しなかった人100人(有効率は「率」で計算するので何人でもいいのですが……)を連れてきます。合計200人全員について、一定期間経過観察し、発症したか、しなかったかの調査を行い、

・ 接種した人では20人が発症した
・ 接種しなかった人では50人が発症した

とします。

そうすると

・ 接種した人の発症率=0.2
・ 接種しなかった人の発症率=0.5

となり、上の計算式に当てはめると

有効率(%)={(0.5-0.2)÷0.5}×100=60

となります。

 

そもそもワクチンを含め「100%効果のある医薬品」はない

「ワクチンを接種しても効かないことがあるらしいから、危険なワクチンの接種を受けるリスクを取る必要はない」「どうせ効かないのかもしれないなら自然感染がよい」という意見があると聞いたことがあります。

また、そのように煽っている本を書店で見かけたことがあります。そのような本を購入するのはその本の著者に利益を及ぼすばかりか、書店に「売れている本」認定されることにもつながりますので、筆者は一切購入しませんが……。

確かに、ワクチンに100%効果があると言い切ることはできません。しかし、それには生命現象とは切っても切り離せない科学的な理由があるのです。

根本的な問題として、私たちのからだの免疫には一人一人個性があります。そのため、ワクチンに限らずどのような薬でも100%効果のある薬は存在し得ません。生命現象はとてもあいまいで、「100%こうなる」というものはないのです。

それ以外の科学的な理由として、近年の衛生環境の改善によって、日常的に病原体に接する機会が減り、ワクチンの効果を増強する「ブースター効果」が得にくいため、免疫の持続がしにくいこと、これを「衛生仮説」といいます。

あるいは、病原菌の情報を記憶するT細胞やB細胞には、何らかの理由で記憶力がすぐに衰えてしまう場合があることなどがあります。

インフルエンザについては、A型B型などの型別のほかに、細かく株に分かれていて、次のシーズンに流行する株を予測してワクチンを生産するのですが、インフルエンザの株は変異しやすいために予測が当たりにくいので、効きにくいシーズンがあることが挙げられます。

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