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JTB山北社長「観光・交流の衰退は人類の重大な問題」

2021年04月15日 公開
2023年02月15日 更新

山北栄二郎(株式会社JTB代表取締役社長執行役員)

 

最高の体験はリアルのなかにある

山北栄二郎
オンライン接客の様子(写真提供:株式会社JTB)

――「持続可能な交流」のために、JTBとしてどのような取り組みを行なっているのでしょうか。

山北 我々は、デジタルとリアルのハイブリッドな旅行のかたちを掲げています。まず、先ほど「交流」の重要性を申し上げましたが、その本質はリアルな体験のなかにあります。

旅先で感じる独特の雰囲気、郷土の個性があふれる食事、現地の人びとのぬくもり――。これらを最大限に感じられるのはリアルにほかなりません。

またJTBは、「旅マエ」「旅ナカ」「旅アト」のサイクルのどの場面においても、お客様に最大限満足していただけることをめざしています。

「担当者の説明のおかげで、旅行が楽しみになった」「添乗員がいてくれたおかげで、自分たちだけで行くより何倍も旅を堪能できた」「今回楽しかったから、またJTBを利用しよう」。このように言っていただくことが、私たちの仕事の原動力です。

そのうえで、お客様にさらに満足していただくためには、この時代であればデジタルの活用も欠かせません。たとえば現在は、オンラインによる旅行相談を実践しています。

コロナ禍で外出を控えているお客様とJTB社員がオンラインで繋がれば、時間と場所の制約を受けずに旅行プランを話し合えます。

JTBは全国に店舗を展開していますから、たとえば福島在住の方が広島に旅行しようと思ったときに、広島の店舗の社員とオンラインで相談することができる。

現地の視点からご案内したほうが、よりその土地の雰囲気や魅力が伝わるケースもあるでしょう。最終的にはリアルを体験していただくとしても、旅行を満喫してもらうための一つの手段にデジタルはなりうるのです。

――新型コロナが収束したのちも、リアルとデジタルのハイブリッドは継続されるわけですね。

山北 そのとおりです。自社のサービスや今後の展開を発表するセミナー・イベントを開催する際も、オンラインツールは非常に有効です。会場に直接足を運ばずとも参加が可能ですし、収束後も「ニューノーマル(新常態)」の考えのもと「三密」を避けられます。

もちろん、国内の遠方だけではなく、世界各地のどこの在住であろうとも、日本で開催しているイベントに参加できます。これからもオンラインツールを利用して、グローバル展開のイベントを進めていくつもりです。

――JTBが昨年11月に発表した「『新』交流創造ビジョン」は「お客さまの『実感価値』の追求実現」を掲げています。どういう狙いがあるのでしょう。

山北 提供するサービスの付加価値を高めるのは当然として、我々の最終的な目的はお客様に満足していただくことです。その意味で用いているのが「実感価値」という言葉です。

効果を計測するのが難しい概念ですが、基本的には「お客様のカスタマージャーニー(旅行者の日常から旅マエ・旅ナカ・旅アト全体を含む体験を表す)」における多様な接点を捉えていくことで高めていきたいと考えています。

――コロナ収束後も「ニューノーマル」が続くとすると、感染症対策を軽視することはできないでしょう。そうした状況で、人びとの観光に対する需要はどう変化するとお考えですか。

山北 感染が収束していない現在、旅行を控えようと考えるのは当然のことです。その意味でも、まずは一刻も早い収束を望むばかりです。

一方で、旅行に対する潜在的な欲求は依然として高く、むしろコロナ禍を経験し、「交流」の大切さがあらためて認識されたのではないでしょうか。安全・安心な旅行が可能になれば、需要は再び高まると考えています。

 

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