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行定勲監督「死後に評価されるのが“理想の映画”」



2021年04月15日 公開

行定勲(映画監督)

行定勲

『GO』(2001年)や『世界の中心で、愛をさけぶ』(04年)などの代表作で知られる映画監督・行定勲氏。昨年来より世界を襲う新型コロナ禍により、自らが手掛けた作品が公開延期を余儀なくされるなど、パンデミックの危機はエンターテインメントにも大きな影響を及ぼしている。

我々はこの難局をいかに乗り越えるのか、コロナ禍で映画の在り方はいかに変わるのか――。映画の未来について、行定監督に尋ねた。【聞き手:Voice編集部(中西史也)】

※本稿は『Voice』2021年5⽉号より⼀部抜粋・編集したものです。

 

作品の内容という「不易」を貫く

――そもそも行定監督が映画監督を志したきっかけは何だったのでしょうか。

【行定】10歳のとき、黒澤明監督の『影武者』(1980年)が熊本城で撮影されていて、じつはその現場に潜り込んだことがあるんです。といっても自発的ではなく、黒澤作品好きの父親に半ば無理やり連れていかれたのですが(笑)。

関係者以外は立ち入り禁止だったのでしょうが、父親に「お前は子どもだから問題ない」と言われて、恐る恐る撮影現場に入っていきました。そこには黒澤監督はいなかったけれど、甲冑を身に纏ったエキストラや大勢のスタッフが集結していた。子どもながらに、「ここは戦場だ」と思いましたね。

それから月日が経ち、いよいよ『影武者』が封切られると、僕は学校を休んで公開初日に地元の映画館まで観に行きました。作品全体から恐ろしさすら感じる圧巻の出来でした。

そして、映画の最後に流れるエンドロールを観て、あの撮影現場にいた大勢の人びとがこの作品に関わっていることを実感したんです。それからは、自分も何がしかのかたちで映画に携わりたいと考えるようになりました。

――当時から、役者ではなく監督として映画を制作したいと思ったのですか。

【行定】まだ子どもでしたから、細かいことまでは何も考えていませんでした。監督に憧れたわけではなく、撮影現場にいたスタッフのおじさんみたいに衣装を汚したり、撮影を手伝ったりしたいと漠然と思ったくらいです。チームで連帯して何かを生み出す魅力を、無意識のうちに感じていたのかもしれません。

――行定監督はこれまでに数々のヒット作を生み出してきましたが、昨年(2020年)は新型コロナ禍の影響で、4月に予定されていた『劇場』(原作:又吉直樹)の公開が7月にずれこみました。コロナ禍による映画業界への余波についてはどう考えますか。

【行定】『劇場』は延期にはなったものの、最終的には無事に公開できて安堵しましたね。同作はコロナ禍の影響に鑑み、映画館での公開と同日にアマゾンプライム・ビデオでの配信を開始しました。日本の実写邦画が劇場公開と同時に配信されるのは史上初めての試みです。

当時は「映画館を潰す気か」との批判を受けたり、逆に「行定さんが映画界で干されてしまう」と心配されたりと、多くの反響が届きました。たしかに、劇場公開と配信は敵対関係のように捉えられていましたから、賛否両論があることは想定していました。

でも当時の僕の気持ちを明かせば、いかなる形態であれ、作品を届けることを優先したかった。結果的には、劇場公開と配信は共存できるという見方が広がってきていると感じます。僕の手法に難色を示していた人も、いつしか応援してくれるようになった。

今回の経験でわかったのは、自分の行動がすぐに評価されるかではなく、作品の中身という「不易」を貫き、信じ続けなければいけないということです。

僕だって映画監督として、劇場の大きなスクリーンで皆さんに映画を観てもらいたい。その気持ちは山々だけれども、同時に世界中の人びとに、どんな状況であっても自分たちの作品を体感してほしい。この二つの気持ちはアンビバレントなようですが、共存するものでしょう。

――昨年4~5月には、完全リモートで撮影した短編映画第1弾『きょうのできごとa day in the home』、第2弾『いまだったら言える気がする』を、それぞれユーチューブで公開しました。新たな映画の届け方に挑戦して、さらなる気づきはありましたか。

【行定】やはり驚かされるのは、配信のスピード感の凄まじさです。映画は通常、制作を始めてから公開まで数年はかかります。でも配信であれば、パッと撮って最低限の編集を施したうえで流してしまえば、数週間、あるいは数日で作品を観客に届けられる。

ユーチューブであれば、一個人がコンテンツを生み出せる時代ですから、誰しもが自分のシアターをつくることができる。話題になった招待制音声アプリ「クラブハウス」も、自分オリジナルのラジオ局を開設できるようなものです。

とくに僕たちのように制作に携わる人間は、世の中の新しい流れを拱手傍観していては、あっという間に波に呑み込まれてしまいます。かつてであれば、テレビや映画といったマスメディアが力をもっていたけれど、いまはすべてのメディアがデジタル空間に集約されつつある。そのときに生き残るのは、結局は質の高い「不易」なコンテンツなのではないでしょうか。

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