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コロナ禍の送別会、パワハラ問題…元官僚が語る「厚労省」の知られざる実情



2021年05月25日 公開

千正康裕(元厚生労働省官僚)

千正康裕

新型コロナウイルスの対応、パワハラ問題、官僚の長時間労働――。いくつもの不祥事を抱えているかのように見える厚生労働省で、一体何が起きているのか。

元官僚の千正康裕氏は、多くの問題の根源には省内の組織や業務の特徴に加え、政治が関係しているのではないかと指摘する。千正氏が経験してきた、厚労省の知られざる実態とは。

※本稿は『Voice』2021年6⽉号より⼀部抜粋・編集したものです。

 

相次ぐ厚生労働省の不祥事

今年3月24日、東京都が飲食店に対して営業時間を午後9時までに短縮するよう要請するなかで、厚生労働省老健局老人保健課が送別会を開き、職員23人が深夜まで会食していたことが明らかになった。

感染対策を呼びかける立場の厚労省が何をやっているんだと、国民の大きな怒りを買った。

ほかにも、3月29日には、部署の職員のパワハラの相談を受ける立場の「パワハラ相談員」が部下にパワハラをしていたことで職員が処分されたという、しゃれにもならない事態が発表された。

さらに、4月8日発売の週刊誌では、職員が未明に職場で自殺未遂を図ったことも報じられている。少し前には、新型コロナウイルス接触確認アプリ・COCOAの不具合も大きな問題となった。

僕は、2001年に厚労省に入省して2019年9月末に退官したが、その後に新型コロナウイルス感染症が流行し、組織を挙げて昼夜なく全力で対応しているかつての同僚たちを、外から応援してきた。

そうした彼ら、彼女らの奮闘がある程度、世間から理解されている雰囲気も感じていたところ、不祥事が相次いでいることに心を痛めている。

厚労省がどうこうというよりも、同省がやっている仕事がうまく進まないと国民に迷惑がかかってしまうことが何より気がかりである。

いまでも、かつての同僚たちとは頻繁に連絡を取り合っているが、はっきり言う。厚労省は頑張りすぎるほど頑張っている。コロナ関係の部署は異常な長時間労働だし、直接コロナと関係ない部署も応援の職員を多数出しているので空席だらけで、どの部署も限界まで働いている。

厚労省の組織改革は急務と思うが、気が緩んでいるとか、襟を正せとか、もっと頑張れといった精神論で解決する問題ではない。不祥事や事件が相次ぐ厚労省で何が起こっているのか、構造的な問題は何か、同省の実務を長く経験してきた立場から解き明かしていきたい。

 

ブラック霞が関のなかで最も忙しい厚労省

僕は、昨年11月に『ブラック霞が関』(新潮新書)という本を出版した。霞が関の長時間労働の実態と背景、解決策を明らかにした本だ。

異常な労働環境で健康や家庭を壊したり、離職したりする人が増えている。これを放置しては霞が関の人材が枯渇し、ミスが増えたり、必要な業務が回らず、国民に迷惑がかかったりしてしまう。その前に、何とか世論の応援も得て、政治のリーダーシップで霞が関の働き方を変えてほしい。

出版ののち、霞が関の長時間労働の問題は繰り返しメディアも報じるようになり、国会でも取り上げられるようになった。3月30日、政府が閣議決定した質問主意書の答弁で、各府省の官僚たちの長時間労働の実態が明らかになった。

過労死ラインの月80時間を超える超過勤務をした職員が、昨年12月から今年2月の3カ月で延べ6532人いた。内訳を見ると、最も多いのは厚労省の1092人、次に財務省の799人、国土交通省676人と続く。

官僚の長時間労働は、霞が関共通の問題だが、厚労省はとくに過酷だ。

もちろん、コロナ禍の影響はあるが、その前から厚労省の忙しさは霞が関でも定説である。国家公務員の労働組合の調査によると、ほぼ毎年残業がいちばん多いのが厚労省だ。

昭和40年代後半のオイルショックで高度経済成長が終わったあと、行政改革が始まり、右肩上がりだった官の肥大化の抑制が始まった。

スクラップアンドビルドといって、一つ課を増やすなら一つ課を減らしなさいという原則ができた。これを政府全体でやればよいのだが、省庁ごとにやるものだから、昭和50年頃までに忙しかった省庁は戦力が温存され、それ以降に忙しくなった省庁は、人手不足の構造になる。

当時の厚生省と労働省は、昭和50年頃以降に忙しくなった官庁の代表だ。失業、生活保護、福祉、医療・介護・年金など主に高齢者向けの制度、女性活躍、少子化対策などを担っているが、右肩上がりの高度経済成長期には失業率も低かったし、家族・親族、地域、職場などの支え合いも強い時代だった。

行政が手を差し伸べないといけない「困っている人」がそれほど多くない時代だ。高齢化も少子化も顕在化していなかった。

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