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東京五輪をめぐって起こる“魔女狩り”…現代を支配する「大衆型同調圧力」の正体

2021年07月13日 公開
2021年07月14日 更新

太田肇(同志社大学政策学部教授)

 

圧力源が権限・序列から「正義」へ

しかし、それによって人びとが同調圧力そのものから解放されたわけではない。タテ方向の同調圧力が低下するのと反比例して上昇してきたのが、ヨコ方向の同調圧力である。

タテの序列が崩れ密室の壁に風穴が開きつつあるかと思えば、形を変えた別の閉鎖的な社会が生まれ、ヨコ方向から圧力をかけてきたのだ。そもそも背後に共同体主義があるかぎり、タテの圧力に代わってヨコの圧力が強まるのは当然といえる。

タテ方向の同調圧力はバックボーンが公式の権限、序列だった。いっぽう新たに顕在化したヨコ方向の圧力のバックボーンは括弧つきの「正義」である。少なくとも形のうえでは、より「民主的」になったといえるかもしれない。

ところが同質的な社会では、「正義」も一面的になりやすい。いちど世間からお墨つきを得ると、「正義」の御旗のもと、それに反するものは容赦なく糾弾され、排除される。

従来の上から下へという圧力と違って、水平方向に加えて下から上へ、たとえば政治家や組織のリーダー、著名人もターゲットになる。しかも上からの圧力と異なりヨコや下からの圧力は圧力をかける者の数が多く、姿はみえない。

それだけに歯止めなくエスカレートし、ときには感情論も入り交じってルサンチマンや魔女狩りの様相を呈することもある。「正義」の名のもとに、問題の本質から離れた議論が独り歩きするケースもある。

それでも外見上は「庶民対権力」「弱者対強者」「正義対悪」という垂直型、勧善懲悪型の構図をつくるので、攻撃に抑制がきかない。たとえば政治や行政の世界でも、産業界でもいったん「不正義」を告発されるとリーダーが反論したり、弁明したりすることがきわめて難しくなっている。

そのことを熟知したうえで、政治家や官僚などを強者、権力者に祭り上げ、「正義の味方」よろしく痛罵(つうば)を浴びせることも可能だ。

 

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