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原因は「歪んだ自己効力感」?…日本人が他人へ与える“圧力”に鈍感の謎

2021年07月19日 公開

太田肇(同志社大学政策学部教授)

 

バッシングをヒートアップさせる「エコーチェンバー現象」

ところでバッシングや誹謗中傷の多くは、ツイッターやLINE、ブログへの書き込みなどSNSを介して行われている。したがってSNSは共同体の同調圧力と関係が深い。

私はSNSが本来は表に出ない共同体の非公式な面、本音の部分を表に出してしまうところに危険性があると考えている。仲間どうしのうわさ話や世間話、個人的なぼやきなどはもともと私的なものであり、仲間うちでのみ許される性質のものである。

ところが同じ感覚でそれをツイッターやブログに書いてしまうと、あたかも公共性を備えた話であるかのように共有され、だれかを傷つけたり、逆に投稿者がたたかれたりする。しかもネガティブな投稿の大半は匿名で行われるので節度がない。攻撃されるのを恐れるため人びとは自粛するようになり、言動の自由はますます制約されていく。

それに拍車をかけているのが、いわゆる「エコーチェンバー現象」である。「エコーチェンバー」とは音楽のレコーディングなどに使う密閉された部屋のことをいう。その中では、自分の発した音が増幅されて聞こえる。

SNSでもそれと同じように、自分と同じ意見ばかりが目に入るようになり、しかもだんだんヒートアップしていく。そのため自分の発言に自信を深めるいっぽうで、自分と違う考え方に接し、内省する機会が失われるわけである。そして、ますます異質な価値観や意見を排除するようになる。

なお同調圧力という点では、同じSNSでもその種類によって性質に差があることに少し触れておきたい。

ツイッターは共同体の範囲が広く、閉鎖性や同質性の程度が低い。したがって求められる同調のハードルは低い。そのため比較的自由に意見を述べたり、異論を唱えたりできる。逆に、そのぶんだけ炎上のリスクが高く、拡散力も大きい。

いっぽうフェイスブックやLINE、インスタグラムなどは共同体の規模が小さく、閉鎖性、同質性が強い。したがって同調すべきハードルが高く、発言は自己抑制される。

表だった攻撃は比較的少ないにもかかわらずLINEなどでイジメが起きやすいのは、こうした共同体の狭さ、ハードルの高さによるところが大きいと考えられる。

このような違いがあるにしてもSNSが同調圧力、とりわけ近年勢いを増した「大衆型同調圧力」をさらに増幅する装置となっていることに変わりはない。

 

(注7)2021年1月10日付「朝日新聞」
(注8)KazuyaNakayachi,TakuOzaki,YukihideShibataandRyosukeYokoi“WhyDoJapanesePeopleUseMasksAgainstCOVID-19,EvenThoughMasksAreUnlikelytoOfferProtectionFromInfection?,”BriefResearchReportArticle,Front.Psychol.,04August2020
(注9)A.Bandura,Self-Efficacy:TheExerciseofControl,W.H.Freeman&Co1997
(注10)2020年9月2日付「神戸新聞」
(注11)2021年1月27日付「日本経済新聞」夕刊
(注12)警察庁の統計
(注13)文部科学省の発表

 

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