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「ソ連は対日参戦する」極秘情報“ヤルタ密約”をポーランド人密偵が日本人に教えた深い理由

2021年09月14日 公開

岡部伸(産経新聞社論説委員)

 

ポーランドと日本の間に生まれた"絆"

加えて二人が親密な関係になったのは、リビコフスキーらポーランド人が、強い親日感情を抱いていたこともあろう。

18世紀よりロシアの侵略と圧政に苦しめられたポーランドは、日露戦争でそのロシアを打ち負かした日本に対し、驚きの目を向けた。日本軍は望まずにロシア軍に従軍したポーランド人の捕虜に対し、松山収容所(愛媛県)などで寛容に遇したが、これもポーランドの対日感情をよいものにした。

さらに両国の距離を縮めたのが、シベリア出兵中の日本軍が、ボルシェビキ(ソ連共産党の前身)に両親を惨殺されたポーランド人孤児765人を救出して、ポーランドまで送り届けた出来事だ。ポーランドの新聞は「日本人の親切を絶対に忘れてはならない。我々も彼らと同じように礼節と誇りを大切にする民族であるからだ」と報じた。

また1940年には、リトアニアのカウナス(ソ連併合前の首都)で領事代理だった杉原千畝が「命のビザ」を発給して6000人のユダヤ人を救ったが、その多くがポーランドから逃れてきた人たちであった。こうした歴史があればこそ、ポーランドは日本を「大切なパートナー」と感じていたのである。

 

リビコフスキーが果たした約束

リビコフスキーは1944年3月、ドイツの圧力に抗しきれなくなったスウェーデン政府から国外退去を命じられ、ロンドンのポーランド亡命政府に向かう。

このとき、リビコフスキーは小野寺に「(退去先の)ロンドンからも引き続き日本のために情報を送る」と約束する。その約束とは、リガの武官時代に家族ぐるみのつき合いをするなど、小野寺と旧知の仲であったストックホルム駐在ポーランド武官、フェリックス・ブルジェスクウィンスキーを仲介してロシア語で伝達することだった。

そして、1945年2月4日のヤルタ会談直後の同月中旬、小野寺のもとに「ソ連はドイツ降伏より、3カ月を準備期間として、対日参戦する」という日本の命運に関わる密約情報が届く。「小野寺信回想録」によると午後8時から始まる夕食前のことだった。

小野寺の自宅郵便受けに物音がした。らせん階段をアパートの最上階五階まで駆け上がり、「手紙」を投函した少年はブルジェスクウィンスキーの長男で、すなわち差出人はブルジェスクウィンスキーであった。

この「手紙」に書かれた情報をブルジェスクウィンスキーに送信したのは、リビコフスキーの直属の上司、ロンドンのポーランド亡命政府の参謀本部情報部長のスタニスロー・ガノであった。

バッキンガム宮殿に近いルーベンスホテルにあったポーランド亡命政府陸軍参謀本部に登庁し、ポーランド軍に復帰してイタリア戦線に赴いたリビコフスキーに代わり、ガノによって小野寺との約束は果たされたかたちとなる。

小野寺は直ちにソ連の参戦情報を参謀本部に打電したが、それが「奥の院」に握り潰されてしまったことはすでに述べた。

終戦後、日本に引き揚げる小野寺にガノは、次のようなメッセージを贈っている。

「あなたは真のポーランドの友人です。長いあいだの協力と信頼に感謝し、もしも帰国して新生日本の体制があなたと合わなければ、どうか家族とともに全員で、ポーランド亡命政府に身を寄せてください。ポーランドは経済的保障のみならず身体の保護を喜んで行ないたい」

祖国をソ連に奪われ、共産化の道を辿ったポーランドは、世界の誰よりも「スターリニズム」の恐怖を皮膚感覚で知っていた。ソ連が侵攻してきたら、ただではすまないことを熟知していたからこそ、小野寺にソ連参戦のヤルタ密約情報を伝え、さらに戦後の身を案じたのであろう。

 

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