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苦境を強いられた飲食店...それでも憲法学者が「経済的自由を軽視」する理由

2021年10月23日 公開

谷口功一(東京都立大学法学部教授)&三浦瑠麗(国際政治学者)

谷口功一、三浦瑠麗
(写真:吉田和本)

依然として続く新型コロナ禍で苦境に立たされる飲食業界。緊急事態宣言が解除されても、そのダメージは甚大だ。「社交の場」の価値とは、私権制限を要求する「リベラル」論者が見落としているものとは――。スナックの実情に精通する法哲学者と、自営業者の支援に取り組む国際政治学者が白熱議論。

※本稿は『Voice』2021年10⽉号より抜粋・編集したものです。

 

「社交の場」としての飲食店

【三浦】谷口さんが本誌に寄せた論考(『Voice』2021年7月号「『夜の街』の憲法論」)は、大きな反響がありましたね。多くの方が読むべき内容だと感じましたので、WEB版が公開されて良かった。私もツイッターで紹介しましたが、やはり反応が大きくて。

【谷口】ありがとうございます。法哲学者として、またスナック研究会代表を務める身として、「営業の自由」が安易に規制の対象となる現状は、看過できませんでした。

私もかねてより三浦さんの鋭い分析に注目していて、今回の対談も楽しみにしていました。普段から行きつけの飲食店によく足を運ぶと伺いましたが、スナックに行かれたことはありますか?

【三浦】ええ。そうですね……もう随分と前のことになりますが、私が初めてスナックに行ったのは、和歌山県の御坊に旅行した折です。

大学に入ったばかりのときに付き合っていた人の地元。田舎で店もそんなに多くないので、スナックで彼の親戚一同に会いました。料理は美味しいし、マダムは優しくて。皆がカラオケに興じ、宴が果てたあとに夜はお店の2階に泊まりました。

【谷口】素晴らしい(笑)。それは間違いなく思い出に残りますね。

【三浦】谷口さんのスナックとの出合いは、いつごろですか?

【谷口】私の出身は大分県別府市で、実家が歓楽街のど真ん中にありました。玄関を出ると目の前はストリップ劇場で、飲み屋やスナックといった「夜の店」が近くに溢れていた。祖父や父は、毎晩のように街に繰り出していました。

成人してから近所の店に行くと、店主やママが私の顔を知っていて「谷口の坊っちゃん、大きくなったね」なんて言われたものです。私にとって「夜の街」は、昔からいままでずっと、落ち着けるホームのような場所ですね。

【三浦】坊っちゃんって可愛い(笑)。コロナ禍ではそうした密な人の交わり自体が拒絶されているような感じですね。人との距離一つとっても「うわっ、近い」というような心理的な影響は今後も残りますよ。

飲食店は軒並み、コロナ禍で大きな打撃を受けていますが、友人と会ういつもの店や家族ぐるみで付き合いのあった店には、たとえ緊急事態宣言下でお酒が飲めなかったときも、定期的にお邪魔するようにしていました。

【谷口】店主からすれば、実際に店に足を運んでくれる三浦さんのような存在が、何よりも心強いでしょう。

【三浦】先日、行きつけのお寿司屋さんの大将から「もし三浦さんが来なかったら、たとえ赤字が出なくても、店を畳んでいたと思う」と言われました。

もともと飲食店には、飲み食いや会食の用件だけでなく、人と会って他愛のない話をする「社交の場」の側面があります。むしろ場合によっては、後者の意味合いのほうが強いかもしれません。

飲食店の方からしてもお客さんとの触れ合いが大事で、給付金で損失が補填されればよいという話ではない。人間関係と手間暇をかけた仕事のやりがいがあっての商売なんですよね。

【谷口】とくにスナックは、典型的な「社交の場」です。「不要不急」という乱暴な言葉によって休業や営業時間の短縮を余儀なくされているけれど、スナックが閉まれば地元の人同士が関わる機会が確実に減ります。

コミュニティにとって致命的なのは、地域の状況や人間関係についての情報が共有されなくなること。たしかにZoomなどのオンラインツールは便利ですが、用件以外の「世間話」をしづらい。多くの方が実感している難点ではないでしょうか。

たとえば今年7月の東京都議会議員選挙では、マスコミや専門家の多くが、各党の獲得議席数の予想を外しました。かくいう私も自民党が過半数を獲得するとみていた一人ですが、都民ファーストの予想外の善戦から結果的に届きませんでした。

選挙の票読みには、各選挙区の状況を「肌感覚」で知ることが不可欠です。社交の場が制限され、体感やヒアリングで情報が得られなかったことも、予想が外れたことに影響しているでしょう。

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