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喫煙所の未設置は行政の怠慢

2021年11月15日 公開
2023年06月23日 更新

橋下 徹(元大阪府知事・弁護士)

吸い殻が散乱する秋葉原(東京都千代田区)のコインパーキング

 

責任を明確化するほど自由の領域も明確になる

――いまおっしゃったことは、新型コロナウイルスへの対応にも該当します。政府や自治体が責任をもってルールを定め、行政権を行使しないと、医療従事者や飲食業者など一部の人が不利益を受け、社会を分断させて自由そのものが脅かされてしまう。

【橋下】そのとおりで、行政の責任と対応権限を明確化するほど、市民の自由の領域も明確になるということです。行政が曖昧な対応をすると、結局すべては市民の自主的な行動に委ねることになる。そうなると、特定の人が不利益を被ることになるのです。自由を守るにはルールが必要で、ルールの範囲内で互いの自由を認め合うのが正しい社会の在り方です。

――嗜好品に関しては皆、いろんな立場があるわけですからね。お酒についてはいかがでしょう。

【橋下】お酒やたばこと違法薬物との違いは明らかで、薬物の全面禁止に対しては国民的な合意があります。覚醒剤やコカインなどの薬物が及ぼす「他者危害」のレベルは、飲酒や喫煙とは比較にならない。

その一方で大麻については現在、世論の一部に容認論があります。「医療に使われている」とか「アルコールのほうが依存度は高い」とかいわれるけれど、僕は容認に反対ですね。

たしかに、大麻は他の薬物と比べて「他者危害」の度合いは少ないといえるかもしれない。しかし仮に合法化すれば、大麻がゲートウェイ・ドラッグ(副作用・依存性がより強いものへの入り口としての薬物)となり覚醒剤やコカインの蔓延につながり、結局大きな「他者危害」につながります。

いずれにせよ、大きな「他者危害」が想定されるものについては一律で禁止し、それ以外はルールを付けて容認するのが、最も現実的な方針でしょう。したがって喫煙については、ルールを付けての容認対象とし、まさに私的領域と公的領域のあいだの中間領域において、行政が前面に出て喫煙所の整備を徹底的に行なうべきです。

 

たばこと財政をめぐって

――たとえば喫煙所の整備のために、地方たばこ税を充てることは考えられませんか。2021年10月には再びたばこの増税が予定されており、地方たばこ税の税収は総額1兆円以上に上ります。たばこが嫌いな人にとっては受動喫煙対策になり、地方自治体にとっては安定的なたばこ税の税収確保になると思うのですが。

【橋下】ありうるでしょうね。ただ率直にいえば、大阪府や東京都のような大きな自治体は、たばこ税がなくても、その分を他の税収で十分補うことができます。ですから税収のために、たばこを容認するという思考にはなりません。やはり「他者危害」「自己危害」の原則からたばこを絶対的に禁止するのか、ルール付きで容認するのかをまず考えるべきです。

また、たばこに関して一つ面白いと思った議論は、医療費との関係です。よく医師の人が、たばこ禁止の理由の一つに、喫煙者は医療費をよく使い、医療財政が悪化することを挙げますね。

ところが、他方で「喫煙者・肥満者などの生活習慣病予備軍には追加保険料を徴収することも動機付けとなるだろう。(中略)しかし、こうした動機付けを行い医療費削減努力をしたとしても、財政的には、一助とはなっても根本的な解決にはならない」(『日本経済新聞』2006年3月10日朝刊「経済教室」鈴木亘)という意見があるんです。

長い目で見れば、医療財政に影響を与える要素はたばこだけではないし、また、仮に喫煙が寿命を縮めることによって、高齢者において必要となる多額の医療費が不要となり、結果、全体の医療費は低減される、という人もいます。

――経済や健康の常識についても、相対的に捉える必要があるでしょうね。

【橋下】たとえば「EV(電気自動車)がエコ」という常識についても、供給する電力が自然エネルギーではなく火力発電所からのものであれば、トータルの合算で化石燃料と二酸化炭素の量は良化しないわけです。政治行政の視点から、短期的な一点ではなく長期的なトータルの側面を見ないと、政策の誤りにつながります。

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