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市民が解決策を出し合う...オードリー・タンが語る「台湾型熟議民主主義」

2021年11月30日 公開
2022年07月01日 更新

オードリー・タン(台湾デジタル担当大臣)

 

重要なのは、なるべく行政側の負担を減らすこと

――日本のデジタル庁が2021年9月に設置されたとき、助言をされたそうですが、「Join」のようなプラットフォーム設置の可能性について言及はされましたか?

【タン】私は関係者のお一人と意見交換をしているだけで、日本に赴いて公務員を指導するようなことはありません。一般的に、もし行政の耳に何かしら情報が入り、具体的に実行可能だと行政側も思えば、喜んでそれを詳しく聞きに行くでしょう。

具体的に実行するのは難しいか、もう了解済みだがどうにもならない問題ばかりなら、仕事は他にも山ほどあるし、情報収集に力を使う余力なんてない、で終わってしまう。

つまり市民の希望が政策に生かされていくうえで大事なのは、市民の個人経験や感覚を、行政側が具体的に実現可能な計画に落とし込むまでの過程を創り出すことにあります。

私たちの場合は「協作会議」で、会議調整スキルを駆使してオンラインにいる5000以上の人々が発散している様々な考え方を、できるだけ短い時間内、例えば一日の仕事のうちに、行政側が時間の無駄と感じないレベルにまで凝縮させます。

すると、本当に有用な情報や、民間と連携できそうなポイントが見えてきます。私が思うに、もっとも重要な部分がここですね。体制内にいる公務員にとって、市民参加は未来的なパワーの節約になるし、リスクも下げられるという見方を提供することができれば、彼らだって積極的に乗ってきます。

我々はこうした「省エネ」と「安心」を二つの原則にしています。この原則だけが、官僚などの公務員を巻き込み、「Join」のような制度を前に進めていく力になるのです。しかしこれは海外に行って指導できるような性質のものではありませんよね。政治的な雰囲気や環境があってこそ実現するものですから。

 

世論調査の結果にはこだわらない

――タンさんを中心に進む「熟議民主主義」が台湾の人びとの生活に浸透していった結果、たとえばオリンピック・パラリンピックレベルの大きな政策上の意思決定を揺るがすほどまで、デジタル民主主義が発展する未来は考えられますか。

【タン】ひたすら何かを支持したり反対したりすることを、私たちの部門では重視しませんね。ある政策を皆が支持したとしても、政策の中身をよりよく変化させるものでなければ、ただ付箋を貼りつけるのと同じです。

付箋に「支持します」と鉛筆で書かれたものを何万枚とペタペタ貼られても「皆さんの支持に感謝します!」と返すだけのことです。私たちが気にかけているのは、どうしたら政策をよりよくできるかどうかです。

先ほど、民間と行政がどうやって共に一つの問題解決に向かえるかについてお話ししましたが、どこに共通の価値を見つけられるのか、どのようにそれを表現して達成し、多くの人に了解してもらうのか――。私はいかなる制度をつくるときにも、世論調査の結果といったものにはこだわりません。

 

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