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コロナ禍で明らかに増加したヘイトクライム...アジア人に対する暴力の「予防策」とは

2021年12月25日 公開

ブライアン・レヴィン(カリフォルニア州立大学憎悪・過激主義研究センター所長)

ブライアン・レヴィン

コロナ禍に突入してから、アメリカではアジア人への暴行事件が急増している。その憎悪の噴出に至る背景には、どんなプロセスがあるのか?そして、現実的な処方箋はあるのか?【聞き手:大野和基(ジャーナリスト)】

※本稿は、大野和基インタビュー・編『近代の終わり秩序なき世界の現実』(PHP新書)を一部抜粋・編集したものです。

 

アジア系女性への暴行が広がっている

――まず、あなたが所長を務めるカリフォルニア州立大学憎悪・過激主義研究センターの研究内容について教えてください。

【レヴィン】このセンターの業務に携わるようになって30年以上になりますが、研究以外にも、さまざまな業務を行なっています。法律の面では、たとえば米最高裁に提出する弁論趣意書等の書類の作成です。

もちろん、全米でヘイトクライムがどのように起きているかを示すデータの収集や、暴力の過激さなど、犯罪の性質に関するリサーチもしています。異なるコミュニティで起きるヘイトクライムの波も研究していますが、いまアメリカで広がっているのはアジア系に対する暴力の波です。

――パンデミックの最中、そもそもアジア系に対するヘイトクライムが増加しているのは本当でしょうか。

【レヴィン】そうですね。我々の仲間であるStop AAPI Hateのデータによれば、ヘイト・インシデント(事案)の対象はアジア系女性に偏っているようです。Stop AAPI Hateは、インターネットポータルを通して被害者の調査をしています。

一方で、我々は警察の調書を利用しています。実際にヘイトクライムを経験して警察に通報した人からの情報です。我々は犯罪をリサーチの対象にしていますが、Stop AAPI Hateでは犯罪に限らず、職場での差別やハラスメントを含むすべてのインシデントを対象にしています。

――2021年5月に成立したヘイトクライム対策法は、ヘイトクライムの抑止力として機能すると思いますか。

【レヴィン】この法律はヘイトクライムが起きたときの対応のプロセスですから、大きな抑止力にはならないでしょう。一方で、この法律には、ヘイトクライムに関するデータ集積について定めたジャバラ・ヘイヤー・ノー・ヘイト法の内容も盛り込まれ、法執行機関の対応と情報伝達の部分では強化が図られています。

とはいえ、犯罪に関する法律の構造そのものを変えるわけではない。今回の法整備は、ヘイトクライムを減少させるための「魔法の杖」にはなりえない現実を念頭に置かなければなりません。

 

非現実的な陰謀論から生じる非難合戦

――新型コロナウイルスの起源が中国であるといわれていることは、アジア系へのヘイトクライムの増加にどの程度影響しているのでしょうか。

【レヴィン】ヘイトクライムの背景として、新型コロナのパンデミックが影響しているのは間違いないでしょう。2020年2月に新型コロナのニュースが出始めたとき、人びとはまだマスクを着用していませんでした。感染爆発はまだ対岸の火事だったのです。

しかし、その後ニューヨークを中心に感染者が放射状に広がります。ニューヨーク市は最も多くの新型コロナの感染者を出しましたが、入院者の増加にともない、3月の1週目直後からヘイトクライムのクラスターが発生します。

同様の傾向はロサンゼルスでもみられました。ウイルスの地理的起源についてのニュースが報じられると、ヘイトクライムは急増し、トランプや他のリーダーたちが社会的に非難されるような発言をすると、増加傾向に拍車をかけました。

――中国に対してはトランプに限らず、バイデンも強硬な姿勢を示しています。その態度がアメリカ人の対中感情をますます悪化させ、ひいてはアメリカ国内で起こるヘイトクライムの片棒を担いでいるとはいえませんか。

【レヴィン】内容が何であれ、ヘイトクライムの触媒作用になるようなニュースが流れると、事件は増加します。ユダヤ人に対するヘイトクライムについても同じです。イスラエルとパレスチナの衝突をきっかけに、ニューヨークでは2021年5月の3週間で、1月から3月までの合計を上回る襲撃がありました。

しかし、ここで押さえておかなければならないのは、アメリカは自由な民主主義をとっているということです。国際的な影響力をもつ人物の行動について検証すること自体は、べつに間違ったことではありません。

相手政府の対応に何か問題があれば、指摘するのはもっともなことです。中国政府については、信教の自由の問題もそうですが、新型コロナの起源についても透明性が担保されていないので、ふとしたニュースでもヘイトクライムに繋がります。ここで気をつけないといけないのは、政策に関する議論がいつの間にか非現実的な陰謀論に発展し、非難合戦に陥ることです。

ひとたび非難の応酬が始まってしまえば、ヘイトクライムはますます激化します。もちろん、米中関係、中国がウイグル族に行なっている惨い行為、新型コロナの起源、これらに関して議論を交わすのは構いません。しかしそれが元になって、アジア系を打ちのめしてもいいという話にはなりません。

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