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行き過ぎた個人主義がアメリカを狂わせた...500年の歴史に潜む「陰謀論との因縁」

2021年12月28日 公開

カート・アンダーセン(作家)

カート・アンダーセン

いま、アメリカは大変な国難に直面していると言える。多くの人々が狂気的な陰謀論を現実と信じ込み、社会的分断も進んでいる。その背景には、アメリカ独特の宗教的な問題と絡んだ、間違った個人主義の暴走がある。【聞き手:大野和基(ジャーナリスト)】

※本稿は、大野和基インタビュー・編『近代の終わり秩序なき世界の現実』(PHP新書)を一部抜粋・編集したものです。

 

「真実」や「現実」を創作できるという信条

――アメリカが500年の歳月をかけて「ファンタジーランド」と化した歴史を、上下巻にわたって考察した著書『ファンタジーランド』が全米でベストセラーになっています。そもそも「ファンタジーランド」とはどういった概念を指すのでしょうか。

【アンダーセン】もともとアメリカは一攫千金を夢見るイギリス人によって、開拓され、生み出された国です。インディアンと呼ばれる原住民の住む国には、莫大な量のゴールドが眠っている。そんな幻想にとり憑かれた人びとが、最初の移住者としてアメリカにやってきた。まさに「ファンタジー」からスタートした国だといえるでしょう。

さらに「建国」=「国を創作してきた」という自負心によって、「真実」や「現実」そのものを自分たちの力で創作できるという信条が、アメリカには根付いています。

各々が自分自身の都合に合わせた真実を創作していった挙句、「真実」(the truth)に対して「私の真実」(my truth)を口にする事態に陥った。言い換えれば、虚構や事実ではないことが、あたかも事実として扱われてきたのです。

このようなファンタジーの信仰の積み重ねのうえに、アメリカという「狂信者の国」ができあがってしまった。コロナ禍で叫ばれる「ワクチンは自閉症を引き起こす」といった話や、トランプが秘密結社と闘う英雄だと叫ぶQアノンをみても明白なように、自分の信じたいものを信じるというアメリカ独特の思想が、とくにここ50年、我々を困難に追い込んでいるのです。

――アメリカ人が幻想を信じやすい背景には、どのような要素があるのでしょうか。

【アンダーセン】まず大きな要素として挙げられるのは、アメリカ人の特異な(peculiar)宗教性です。特異なといったのは、多くのアメリカ人が自分たちを非常に宗教的であるとみなしているからです。さらにいえば、アメリカにおける福音派のプロテスタント主義がもつ先進国的な気質が、例外的に特異だということです。

アメリカのプロテスタントは500年前に始まりましたが、カトリックとはまったく違う要素をもつ。カトリック教会はバチカンに本部を置き、ローマ教皇や枢機卿、司教といったヒエラルキーがあり、ドクトリン(教義)に対する支配を維持しています。

一方でプロテスタントには、ローマ教皇のような存在もいなければ、教皇庁もありません。何千という教義がある半面、「これだけを信じなさい」という支配的な教義はない。自分で聖書を読み、何が真実であるかは自分で決める。そのなかで自分と神の繋がりを感じるのです。

自分の世界は、己と聖書だけで成り立っている。この考え方は非常にアメリカ的であり、他国のプロテスタントに比べて、じつに例外的です。アメリカ精神の大部分を担う「個人主義」は、こうした独自のプロテスタントの価値観によって誕生しました。

 

反エリート主義者がトランプ支持で結束

――トランプ支持者の多くは福音派です。しかし、あなたは本の中でトランプはまったく宗教的ではないと書いています。それならば、なぜトランプは福音派の信者に支持されるのでしょうか。

【アンダーセン】その質問はこの時代を象徴する最も重要な問題です。トランプは敬虔な信者ではありませんし、そう振る舞おうともしない。にもかかわらず、福音派であってもなくても、これほどまでにトランプ支持者を活気づけるものは何か。

それはトランプの異常なまでの頑迷さと人種差別主義的態度です。これはアメリカの反エリート的な要素と関連していると捉えられます。昔からアメリカには反エリート主義、反インテリ主義が根強く存在しています。

とくに地方に住む人びとやブルーカラーの労働者は、上位のエリートによって自分たちが搾取されていると強く感じている。これはアメリカの国民性のなかの一部ともいえるでしょう。

彼らがトランプを支持するのは、政策が理由ではありません。同じような状況に置かれた人びとが、トランプを支持することによって互いに絆を感じ合えるからなのです。

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