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中国がタリバンに接近する理由とは? 最大の脅威「新疆ウイグル」との関係

2021年12月26日 公開
2021年12月27日 更新

佐藤和孝(ジャーナリスト)

アフガニスタン・カブール市北方のタリバンを空爆する米軍
アフガニスタン・カブール市北方のタリバンを空爆する米軍

中国が積極的にタリバンに接近しようとしている。それはいったいどんな理由からなのか? 現地を取材してきたジャーナリストの眼から見ると、中国の抱えた大問題が浮かび上がる。

※本稿は、佐藤和孝著『タリバンの眼――戦場で考えた』(PHP新書)を一部抜粋・編集したものです。

 

「文明の十字路」「シルクロードの拠点」

日本から見ればアフガニスタンは遠く、世界の繁栄から見捨てられた国かもしれない。しかし歴史を見れば、アフガニスタンは古来「文明の十字路」と称されてきた。

アフガニスタンは紀元前の時代から、東西の文化の結節点だった。代表的なのは、パキスタン北西部(インダス川の支流に囲まれたペシャワール盆地)に栄えたガンダーラ美術の影響だろう。2001年、タリバンによって破壊されたバーミヤン渓谷の石仏・石窟も、ガンダーラ仏教美術の一つである。

アフガニスタン内の遺跡から出た出土品を見ると、アレキサンダー大王の東征による古代ギリシア文明の影響や、交易によるインド、シリア、ペルシャの影響が強い。インドの女神像やローマ、エジプトのガラス・青銅・石膏製品も国内の遺跡から出土している。

アフガニスタンはまた、シルクロードの拠点の一つとして知られる。マルコ・ポーロや『西遊記』のモデルだった唐代の僧・玄奘三蔵も通った国だ。

 

「一帯一路」とソ連の南下政策

さらに現在、中国が進めるシルクロード経済圏構想「一帯一路」も、アフガニスタンと関わりを持つ。パキスタン南西部からイラン南東部、アフガニスタン北西部、トルクメニスタンに居住するバルチ族という民族がいる。

バルチ族の一部は現在、バルチスタンの分離独立を掲げるバルチスタン解放軍(BLA)として活動しており、中国とのあいだで軋轢を生んでいる。バルチスタンは資源が豊富で近年は中国企業が進出しており、BLAによれば「自国の資源が収奪されている」という。

パキスタンとアフガニスタンの国境は、地政学上の要衝である。以前はアメリカもこの地域を梃子入れしようと、アフガニスタンの国境に近いパキスタンのクエッタからカンダハルを通る石油パイプライン構想を立ち上げた。しかし結局、頓挫してしまった。

他方、かつてのソ連にとってパキスタンは南下政策の重要な通過地点である。とくに、パキスタン最大の都市カラチの港を不凍港として求めていた。

ソ連は1971年〜75年の第四次5カ年計画でパキスタンに当時2億ドルを投じ、カラチ地区に年産200万トンの製綱所を建設した。インフラと借款債務によって相手国をがんじがらめにする手法は、現在の中国とほぼ同じといってよい。

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