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千島列島は「引き渡される」…文面に隠されたスターリンの深慮遠謀

2022年01月12日 公開

岡部伸(産経新聞社論説委員、前ロンドン支局長)

 

日ソ共同宣言に基づき「引き渡し」の議論を

ときたま「戦争で奪われた領土は戦争で取り返すしかない」という意見を耳にするが(日本の国会議員でも同様の発言をする者がいて問題になった)、戦後、太平洋で日本と死闘を行なったアメリカは小笠原諸島、沖縄を返還し、日本の同盟国となった。日本とソ連のあいだには、1956年に日ソ共同宣言が結ばれた。

ここで留意したいのは、ヤルタ会談から現在も続く北方領土問題でプーチン大統領は、安倍晋三前首相に続いて、菅義偉前首相に対しても、北方領土交渉の基礎として改めて提案したのは、日ソ共同宣言であったことだ。

日ソ共同宣言でも「平和条約締結後にソ連は歯舞群島と色丹島を日本に引き渡す」と「返還」ではなく、「引き渡す」(ロシア語で「ペレダーチャ」)と記されている。ただし、プーチン大統領は、「引き渡す根拠や、どちらの主権になるかは明記されていない」と解釈し、歯舞と色丹の二島返還を素直に履行する意思を示していない。

それでは、「第二次世界大戦の結果、ロシア領になった」とロシアが北方四島領有を合法化する根拠と主張するヤルタ密約の「クリール諸島がソビエト連邦に引き渡される」はどう説明するのだろうか。ヤルタ密約と日ソ共同宣言の「引き渡し」は、奇しくもロシア語では「ペレダーチャ」で同じだ。ヤルタ密約の草案で「引き渡し」を用いたソ連は、日ソ共同宣言でも「引き渡し」の言葉を使用したとされる。

日ソ共同宣言に対するプーチン大統領の解釈でいえば、ヤルタ密約でも根拠を示していないのだから、千島列島の主権はソ連に移っておらず、いまだに日本の主権下にあることになる。

日本とロシアは首脳レベルで、このような法解釈に基づく「引き渡し」の根本的な議論を徹底的に行なうべきである。これこそ停滞する北方領土交渉打開の要となるだろう。

 

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