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「躍進の維新」と「惨敗の立憲民主」の決定的な差

2022年01月25日 公開

逢坂巌(駒澤大学法学部准教授/駒澤大学ジャーナリズム・政策研究所所長)

 

ひっくり返されたメッセージ

しかし、その立民の広報が今回の選挙で上手くいったのかというと、答えはNOだ。総選挙にあたって準備されていた立民のさまざまなメッセージはそのほとんどがひっくり返されてしまった。

今回の総選挙、立民は「変えよう。」をキャッチフレーズに、(1)新型コロナから命と暮らしを守り抜く、(2)「一億総中流社会」の復活、(3)原発に依存しないカーボンニュートラル、(4)暮らしの安心への投資、(5)多様性を認め合える「当たり前の社会」、(6)平和を守るための現実的外交、(7)まっとうな政治、以上の7つからなる「政権政策2021」を掲げた。

たしかにこれらは、「コロナ禍の中で、入院できないまま自宅に放置され、救えるはずの命が救えない。多くの方々が生活や事業に行き詰まる」(政権政策2021)といった昨年8月ごろの厳しい状況や「お金持ちをさらに大金持ちにし、強い者をさらに強くしただけ(中略)『中間層』が底抜けし、貧困層が増え、格差が拡大し」(同前)た原因と批判するアベノミクスを掲げる安倍政権やそれを継承したとされる菅政権に向けては、それなりの批判となりえただろう。

しかし、菅の不出馬宣言から総裁選を経て岸田文雄新総裁誕生へと至る自民党の一連の政治劇が、ワクチン接種の進展によるコロナ感染者数の激減と並行して、テレビを舞台に賑々しく行われる中、立民のメッセージはひっくり返されていく。

コロナの新規感染者のピークは2021年8月20日の2万5876人(NHK)であった。この翌々日には横浜市長選で菅が推す候補者が落選し、その後の政局の大きなきっかけとなったのだが、それから新規感染者数は激減した。感染者数の激減は立民のみならず、共産党の「なにより、いのち。」のキャッチフレーズにもダメージを与えただろう。

 

自民総裁選候補者のキャラ立ち

総裁選で岸田が新自由主義的経済政策は「富める者と富まざる者の分断」を生じさせたとし、「『新しい資本主義』で分厚い中間層を再構築する」としたことも立民と共産のメッセージを奪った。また、自民が数十兆円規模の経済対策を、公明も「未来給付金」を選挙期間中一貫して主張し続ける中、立民の掲げる「暮らしへの投資」もかすんでいった。

加えて、安倍政権以来、政権の不実や「独裁性」を批判すべく立民が一貫して掲げてきた「『まっとうな政治』を取り戻す」に対しても、岸田は青い手帳を振りかざし「私は国民の声を聞いてきた」と切り返す。医療関係者や飲食関係者などに「車座」で話を聞く姿がニュースで報じられることも、「新しい時代」(自民党総選挙キャッチフレーズ)を可視化した(詳しくは拙稿「したたかな対応で勝利した岸田自民党」『マスコミ市民』2021年12月号)。

なお、総裁選にはかねてから脱原発を主張していた河野太郎や、高市早苗・野田聖子といった女性の候補者も出馬し、自民党の多様性を可視化した。この三名は若手のときから「ビートたけしのTVタックル」や「朝まで生テレビ!」などのテレビ番組にも多く出演し、テレビパフォーマンスも巧みであった。それらキャラ立ちした候補者による「激しい」議論にテレビも喜び、総裁選はニュースや情報番組で盛んに取り上げられた。

グラフは6つの在京地上波キー局による自民党総裁選と総選挙後の立民代表選の関連情報の報道時間を日別であらわしたものである(図1・2)。

自民党総裁選関連情報のテレビ報道時間

立憲民主党代表選関連情報のテレビ報道時間

総裁選は日程が正式に決定した8月26日から、代表選は枝野幸男が退陣を匂わせた総選挙翌日の11月1日から、それぞれの投開票日までの報道時間の計を表している(選挙期間は、総裁選が9月17日告示・29日開票、代表選が11月19日公示・30日開票)。データはテレビ放送(番組およびC M)を調査・分析するプロジェクト社(本社:東京都港区)が「TVメタデータ」を活用して抽出したデータを使用した(*2)。

総選挙後に、自民党の選対委員長の遠藤利明が、事前の予想を超えた勝利について「9月の総裁選で4人の候補者がいろんな議論をして、自民党の幅の広さを多くの国民に知ってもらった。それが大きな勝因の一つかなと思っている」(毎日新聞、11月1日)と発言したが、自民党総裁選のテレビ報道時間は約180時間10分。35日間の平均では1日あたり約5時間と、「自民党総裁選祭り」の報道量の多さを確認できる。各候補者はテレビに加えて、ネット・SNSも活用して総裁選を大いに盛り上げ、自民党の幅を示して党のイメージを変えた。

総裁になった岸田は、野党の争点を消しつつすぐさま解散して、ボロが出ないまに選挙を終わらせる。その間、安倍・菅時代に批判が大きかった「説明を求める声」に対しては岸田ノートと車座の「聞く力」パフォーマンスで対処する。このような(結果的な?)自民党の広報戦術に立民は対処できなかった。ちなみに立民代表選は30日間で18時間50分と、党員数と同様に、自民の10分の1程度しか報道されていない。

【注釈】*2:選挙関連キーワードで抽出し、筆者が駒澤大学の逢坂ゼミの学生と共に再チェックした。手続きについて詳しくは逢坂巌「2021年大政局のメディア政治(仮題)」『研究所年報』(38)、駒澤大学ジャーナリズム・政策研究所、2022年3月(予定)。

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