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1秒に「27万円」増えていく...膨張する日本の借金が「問題ない」と言い切れないワケ

2022年01月26日 公開
2022年10月24日 更新

宮本弘曉(東京都立大学教授)

膨張する日本の借金

「日本人は世界経済の大きな潮流を理解していない」。国際通貨基金(IMF)を経て、東京都立大学教授を務める宮本弘曉氏は、その結果が日本経済の停滞を招いたと語る。本記事では「日本財政のリアル」について、各種データを基に語っていただく。

※本稿は、宮本弘曉『101のデータで読む日本の未来』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。

 

日本の財政を数字に落とし込んでみたら見えてきたもの

いきなりの質問で恐縮ですが、「27万円」と聞いて、何を思い浮かべますか?この質問を大学の講義ですると、よくある答えは、「大卒の初任給」と「日本人の平均月給」です。果たして正解なのでしょうか。それぞれの数字を確認してみましょう。

厚生労働省の「賃金構造基本調査」(2020年)によると、大卒初任給の平均額は約22万円です。ただし、これは額面金額で通勤手当も含んだものです。税金や社会保険料などを引くと、実際に手にする「手取り額」は約17万円となります。

一方、同調査によると、一般労働者の男女計の平均賃金は約31万円となっています。賃金は年齢や性別、職種、雇用形態、地域などの違いによって異なりますが、日本人の平均月給は約31万円ということです。手取り額は25万円前後になります。したがって、大卒の初任給も日本人の平均月給も、冒頭の問題の答えではありません。

では、「27万円」とは、何の数字なのでしょうか。その答えは、1秒間にかかる国債の利払いです。国債とは国が発行する債券で、簡単にいうと国の借金です。借金ですから、国は利子を払います。その金額が1秒間で27万円ということです。

2021年度の日本政府の債務に対する利払い費は約8.5兆円です。この数字を365で割ると、1日当たりの利払い費が求められます。その額はなんと約233億円です。この数字を24で割ると、1時間当たりの利払い費が約9.7億円となります。この数字を60で割ると1分あたりの利払い費が約1617万円、さらに60で割ると1秒あたりの利払い費が約27万円となり、先ほどの大卒の初任給や日本人の平均月給(手取り額)より大きな値となるのです。なかなかの衝撃的な数字ではないでしょうか。

「27万円」という数字が語るように、日本の財政は危機的な状況です。なぜ、日本の財政はこのように厳しいものになってしまったのでしょうか? ここでは、これらの問いについて考えることにしましょう。

 

日本の財政が危機的状況に陥ったワケ

まずは日本政府の台所事情を確認しておきましょう。2021年度の日本の歳出と歳入を確認します。まず歳出については、2021年度の歳出総額は106.6兆円で、過去最大となっています。

最も大きな比重を占めているのが、医療、年金、介護などの社会保障費です。その額は35.8兆円と、歳出全体の約3分の1を占めています。次いで大きいのが国債費の23.8兆円で、歳出全体の約22%を占めています。3番目に大きいのが、中央政府から地方への配分である地方交付税交付金です。その額は約16兆円で、歳出全体の15%を占めています。これら3つの項目の合計は75.5兆円で歳出の7割を超え、さらに日本の税収を上回っています。

次に歳入をみてみると、歳入総額の106.6兆円のうち、税収合計(その他収入を含む)は63兆円で歳入全体の約6割となっており、残りの43.6兆円は国債発行で賄っています。公債への依存率は4割を超えており、日本の歳入は借金に大きく依存していることがわかります。

日本の財政状況を考える際には、国の会計を勤労者の1年間の家計に例えるとわかりやすいでしょう。2021年度の国の会計を勤労者1年間の家計に例えると、年間の給与等の収入は630万円で、支出は1066万円となります。その差である436万円は借金で補うことになりますが、その額はなんと年収の約7割となっています。さらに、この家計は、今年だけ借金をしているわけではありません。過去数十年にわたり借金をし続けているので、ローン残高は9900万円にまで膨らんでしまっています。

日本の一般会計の歳入と歳出の推移をみると、30年前の1990年の税収は60.1兆円、歳出は69.3兆円で、公債発行額は6.3兆円でした。しかし、その後、経済の長期停滞により税収は低下、2010年以降は景気が回復したこともあり、税収は再び増加傾向になるものの、その額は未だに1990年以下となっています。一方、歳出は一貫して伸び続けています。

こうした状況に追いうちをかけたのが、2020年春からの新型コロナウイルス感染症の流行による不況です。新型コロナウイルス対応で歳出が大きく膨らみ、新規の国債発行額が初めて100兆円を超え、債務残高も一気に増加しました。

さらに、国債だけが国の借金ではありません。地方自治体が発行する地方債や政府が財政投融資のために発行する債券など、色々な債券が存在しています。これらをまとめたものを一般政府債務と言います。

2020年の一般政府債務残高は、一国の経済規模をあらわすGDP比で約257%と、世界でも突出した数字となっています。国の借金で言えば、日本は世界一の借金大国なのです。

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