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習近平はなぜ、独裁体制を確立できたのか?「腐敗撲滅運動」に隠された野望

2022年02月18日 公開
2022年02月21日 更新

石平(評論家)

 

全面開花した「腐敗文化」

毛沢東の時代以来、「腐敗」というのはもともと天下国家を私物化した共産党政権の一種の文化である。前述のように、毛沢東本人は腐敗した貪欲な生活を送るだけでなく、詐欺師のような手段で莫大な蓄財にも走っていた。

そして毛沢東の後の鄧小平時代においては、市場経済の広がりと経済繁栄のなかで、共産党の「腐敗文化」が全面開花した。とくに胡錦濤政権時代の後期においては、共産党幹部であれば腐敗に手を出していない人間がほとんどいないほど、汚職や収賄などの腐敗がまさに政権内の「普遍的な文化」として隆盛を極めた。

ところが習近平政権になってから、「腐敗の普遍化」ともいうべきこのような現象は習近平自身にとってむしろ、粛清を行なって自らの権力基盤を固めるための好機となった。

共産党総書記に就任して早々、習近平は唯一の政治的盟友である王岐山(おう きざん)という共産党の大幹部を、腐敗摘発専門機関の中央規律検査委員会の書記に就任させた。

それ以来5年間、この習近平・王岐山コンビは二人三脚で、中共政権内における凄まじい「腐敗撲滅運動」を展開した。2012秋から2017年秋までの5年間、総計25万人以上の共産党幹部が腐敗の摘発を受けて失脚したり、刑務所入りになったりした。

 

最初から「選別的な摘発」だった

もちろん習近平と王岐山が進めた腐敗摘発は、本気で腐敗を撲滅するための運動では決してない。それはあくまでも、習近平が党内の政敵たちを潰すための権力闘争の武器であって、共産党幹部集団全員に脅しをかけて習近平への絶対服従を強いるための手段にすぎなかった。

習近平たちの腐敗摘発は、最初から「選別的な摘発」であった。習近平・王岐山身辺の腐敗や彼らの子分たちの腐敗はいっさい不問にして、摘発の矛先をもっぱら政治上の対立勢力に向けていたのである。

この手段を用いて習近平は、江沢民派の勢力をバックにして自分に盾付く元共産党政治局常務委員・警察ボスの周永康(しょう えいこう)や、解放軍元制服組トップの郭伯雄(かく はくゆう)などを腐敗摘発で粛清し、それを機に警察と軍を掌握した。

腐敗摘発で政敵を粛清する一方、習近平・王岐山コンビはまた、この腐敗摘発を用いて恐怖政治を行ない、共産党幹部全員を怯えさせて彼らをねじ伏せた。

前述のように、共産党幹部はほぼ全員が腐敗に手を出しているから、摘発の手が及んできたら誰も破滅から逃れられない。そこで習近平と王岐山は、前述の「選別的な腐敗摘発」をもって幹部たちに1つの明確なメッセージを送った。「習総書記に不服な奴は漏れなく摘発して破滅させてやるが、習総書記に絶対服従していれば目を瞑ってやるぞ」とのメッセージである。

腐敗にたっぷりと浸かった共産党幹部の大多数は、いっせいに習近平の足下に平伏して習近平への絶対服従を誓うこととなった。そしてその結果、習近平の個人独裁体制はわずか5年間で出来上がり、強固なものとなった。

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