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中国で消される人々...“曖昧な態度”を続ける日本はどうすべきか?

2022年03月10日 公開

阿古智子(東京大学大学院総合文化研究科教授)

阿古智子

2021年11月、中国のテニス選手である彭帥(ポン・シュアイ)が突如公の場から姿を消したことは記憶に新しい。そして行方不明になったのは彼女だけではない。「国家安全」のためと当局に拘束されるなど、連絡が取れなくなってしまう人が近年後を絶たないのだ。

また、新疆ウイグルや香港に関する人権問題は国際社会でも課題として挙げられている。今回の2022年北京五輪では、アメリカを始め数か国が「外交的ボイコット」を決断した。

この問題だらけの中国に対して、いまだ立ち位置が定まっていない日本は今後どうしていくべきなのだろうか。

※本稿は『Voice』2022年3⽉号より抜粋・編集したものです。

 

テニス選手、ジャーナリスト... 次々と行方不明になっている

ウィンブルドンや全仏オープンのダブルスで優勝経験もあるテニス選手の彭帥(ポン・シュアイ)が2021年11月初旬、張高麗前副首相から性的関係を強要されたと微博(ウエイボー:中国版LINE)で告発した。

その後、彭帥の姿は公の場から消え、安否を心配する人たちがSNS上で「#WhereIsPengShuai」(彭帥はどこだ)というハッシュタグを使って情報提供を呼びかける動きが広がった。11月14日には女子テニス協会(WTA)のスティーブ・サイモンCEOが深い懸念を示し、徹底的かつ公正、透明な調査を求めた。

11月21日、国際オリンピック委員会が「トーマス・バッハ会長が彭帥と30分間にわたりテレビ電話で通話し、無事を確認した」と唐突な発表を行なったが、12月1日、サイモンCEOは「彭選手が自由で安全で、検閲や強制、脅迫を受けていないのかどうか重大な疑問を抱いている」と表明し、「2022年に中国で大会を開催した場合、選手やスタッフ全員が直面しうるリスクを大いに懸念している」として中国でのWTAの大会を中止すると発表した。

行方不明になっているのは彭帥だけでない。中国政府は政府に対して批判的な言論活動や市民運動を行なう人物を度々拘束して監視下に置いたり、国家の安全を脅かしたとして逮捕したりしている。

ジャーナリストで#MeToo運動家でもある黄雪琴(ファン・シュエチン)、労働問題に取り組む活動家の王建兵(ワン・ジェンビン)も、昨年9月に当局に拘束されて連絡がとれなくなっている。

2018年に米国在住の羅茜茜(ルオ・シシ)が北京航空宇宙大学在学中に教授に性行為を迫られたとSNSで告発した際、黄雪琴は羅茜茜の主張を裏付ける証言を集めるなど、支援に奔走した。羅茜茜の告発をきっかけに数十人の被害者が声をあげ、大学は調査を実施し、問題の教授を解雇した。

 

「国家安全」のために拘束される人たち

2022年1月12日には、民主活動家の郭飛雄(グオ・フェイション)が国家政権転覆扇動容疑で広東省広州市の警察当局に逮捕された。具体的な逮捕の容疑は明らかにされていない。郭飛雄は米国に渡った妻の癌の闘病に付き添いたいと米国行きを希望したが、中国当局は「国家安全」を理由に阻止していた。

昨年11月には、出国を認めるよう李克強首相に求める文章を公表したが、その後に行方がわからなくなった。妻は1月10日、夫に会えないまま米国で亡くなった。

人権活動家で元弁護士の唐吉田(タンジー・ティエン)は昨年12月10日の「国際人権デー」に、北京にある欧州連合(EU)代表部で行なわれた人権関連のイベントに出席を予定していたが、その日から行方不明になっている。

日本に留学している唐吉田の長女は昨年5月以降、病気で意識不明の重体となっており、唐吉田は娘を見舞うため、当局による出国制限の解除を訴え続けてきた。支援者たちは、郭飛雄のように逮捕される可能性があるのではないかと心配している。

人権派弁護士の謝陽(シエ・ヤン)も1月中旬に行方不明になり、その後、国家政権転覆扇動罪の容疑で拘留されていることがわかった。謝陽は2015年7月、人権派弁護士ら約300人が当局に一斉連行された際に拘束され、弁護士の江天勇(ジャン・ティエンヨン/国家政権転覆扇動罪で懲役2年判決)らへの暴行や睡眠制限などの拷問被害を訴えていたが、2017年12月の公判では、「拷問はなかった」と発言し、刑を免除された。今回、連行されたのはなぜなのか。湖南省の小学校教諭・李田田(リ・ティエンティエン)を支援したからなのか。

昨年12月、1937年に起きた南京事件の犠牲者が30万人に及んだという中国側の見解に疑問を呈し、「私たちは永遠に恨んでばかりいないで、戦争がなぜ起こるのか考えなければならない」と学生たちに話した上海の職業専門学校・震旦学院の教師が除籍処分になった。

彼女をSNS上で擁護した李田田は妊娠中であったともみられているが、無理やり精神病院に入院させられた。李田田の身を案じる声が高まり、彼女を連れ去ったとみられる湖南省永順県当局にひっきりなしに抗議や問い合わせの電話がかかった。その結果、李田田は自宅に戻ることができたのだが、謝陽は李田田と彼女の家族に慰問金を届けようとして村の役人らに殴られ、携帯電話を破壊された。

共産党政権に負の影響を与える勢力を排除することが、中国にとって「国家安全」を守ることになる。しかし、そのためにどれだけの資金や人を投入しなければならないのか。病に臥している妻や娘に会いたいというだけなのに、活動家や弁護士を不安定要素と捉えて拘束しなければならないのか。彼らが何をして、「海外勢力と結託」しているというのか。

これほどの厳戒態勢をとらなければならない国で、選手たちは安心してオリンピックに参加できるのか。

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