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ロシア・プーチン氏が世界を敵に回しても成し遂げたい「最後の仕事」

茂木誠(世界史講師)

 

ロシアを立て直す「希望の星プーチン」

グローバリストを敵に回すプーチン

個人主義とグローバリズムへ大きく振れた針を引き戻したのが第2代プーチン大統領です。

エリツィン政権時代に、首相として汚職の摘発やイスラム過激派の掃討作戦で辣腕を振るったプーチンは、ソ連時代の秘密警察(KGB)の出身でした。

彼はまず、ユダヤ系新興財閥のトップに収賄や脱税などの容疑をかけて逮捕し、彼らの財産を没収し、外国資本に握られていた会社を次々と国営化していきました。裁判の模様はテレビで生中継され、鉄格子に入れられた財閥のオーナーを見て、国民は溜飲を下げました。

こうして手に入れたエネルギー資源の輸出を財源とし、保険・年金制度を再建しました。反対勢力に対して徹底的な弾圧を行う独裁色の強いプーチン大統領が、ロシア国民から強く支持される理由は、ロシアの地下資源を外資や新興財閥から取り戻し、国民に利益を還元してくれたからなのです。

外資を締め出したことで、プーチンはグローバリスト、国際金融資本を敵に回すことになりました。この点、「反グローバリズム」を掲げて当選したトランプ大統領とは、ウマがあうのです。

2016年の大統領選挙で、ロシアの情報機関がトランプ優勢になるよう世論工作をした、と民主党が主張する「ロシア・ゲート」はここにつながるのです。

プーチンのナショナリズムへの傾倒は、ソ連時代への逆行を連想させるかもしれません。しかし、根本的に違うことがあります。

中国共産党政権は鄧小平以来、グローバリストとズブズブの関係でした。だから中国共産党がいかに人権抑圧を続けても、民主党グローバリスト政権時代のアメリカ政府は不問に付し、マスメディアも沈黙していたのです。ところが、プーチンの人権抑圧に対しては口を極めて攻撃する。ダブル・スタンダードです。

また中国共産党の下では一度の国政選挙も行われていませんが、プーチンのロシアには国政選挙があります。確かに不正選挙や野党候補に対する嫌がらせがあるとしても、選挙で大統領を選ぶ体裁をとっているロシアを、選挙すらない中国と同列に論じることはできないでしょう。
プーチンは、2036年までの続投を可能にする憲法改正案を提出し、国民投票の結果、賛成多数で承認されました。事実上の終身大統領です。

2022年に70歳を迎えるプーチン。日本人の70歳はまだまだ元気ですが、ロシア人男性の平均寿命はなんと67歳(女性は77歳)。もう先は長くないと自覚しているプーチンが「最後の大仕事」として選んだのが、旧ソ連の「兄弟国」ウクライナへの軍事侵攻でした。
 

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