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多くの人が無意識にやりがちな「相手のやる気を削ぐ」質問

三坂健(株式会社HRインスティテュート代表取締役社長)

2023年03月17日 公開 2023年03月23日 更新

多くの人が無意識にやりがちな「相手のやる気を削ぐ」質問

激変する今の時代を生き残るには、戦略的思考が必要不可欠。目の前にある問題を解決しているだけでは、イノベーションを起こすことは不可能だ。戦略を立案し、実行する段階において、どのようにすれば周囲の人に動いて貰えるのか。三坂健氏が解説する。

※本稿は、三坂健著『戦略的思考トレーニング 目標実現力が飛躍的にアップする37問』(PHPビジネス新書)から、一部抜粋・編集したものです。

 

人は「理感一致」でなければ行動しない

戦略を立案し、いざそれを実行しようとすると、必ず壁にぶつかります。

目的や目標を設定し、現状とのギャップを確認し、そのギャップを埋めるために外部環境を分析し、アウトサイド・インで考えたシナリオを効果的に描いたとしても、そのプロセスは何ら間違っていないにもかかわらず、それだけでは戦略は実行されません。戦略は、立てただけでは動かないのです。

いったい、なぜでしょうか?

それは、人が動かないからです。

本稿のテーマである戦略的思考において、「人を動かす」という点も大事な要素です。目的・目標を実現するうえで避けて通れませんし、何より、戦略立案よりも人を動かすことのほうが難しいと感じている人や組織が多いからです。

まず、思い通りに人に動いてもらえることはない、という前提に立つことが必要です。

人は自分の意思で動きたいものですし、基本的に、変わることを嫌います。また、変革への恐れも抱きます。それに加えて、私的な感情が絡むこともあります。

いくら論理的に理解したとしても、感情的にやろうと思えない、ということは、戦略に限らず、あらゆる場面で起こってしまうことです。要するに、人は「理感一致」でなければ動かないということです。

では、人を動かすには、具体的にどのようなことを意識して働きかけていくことが必要でしょうか? 本稿ではこのことをテーマに取り上げ、考えていきたいと思います。

人を動かすためには、まず、人が動くパターンを理解し、そこに働きかけなければなりません。人が動くパターンを集約すると、次の3つになります。

・恐怖感や責任感から動く
・達成したい目標があるから動く
・価値や意味を感じるから動く

1つ目の「恐怖感や責任感から動く」は、「動かないと怒られる」「責任をとらされる」と思うから動くというパターンで、俗に「やらされ感」と表現されるものです。これは、長続きしません。しかし、組織の中で、このように人が動かされているケースは珍しくありません。

2つ目の「達成したい目標があるから動く」は、目標を達成することで得られる達成感や外的報酬を目当てに動くパターンです。この心理も誰もが持っているものなので、大切なアプローチです。

この1つ目と2つ目を使い分けるアプローチを「アメとムチ」と呼びます。アメとムチを使い分けることで、一定の人を動かすことはできます。

しかし、これらには共通の課題があります。それは、一定の役職者でなければ、このアプローチをとるのは難しい、ということです。

例えば、あなたが組織の代表で、動かす対象が部下であれば、一定程度、このアプローチで人を動かすことができるでしょう。しかし、動かしたい対象があなたの評価対象者でなければ、なかなか動いてくれません。

では、アメやムチが使えない場合は、どうやって人を動かせばいいのでしょうか? それが、3つ目の「価値や意味を感じて動く」です。

これが最も本質的なアプローチだといえます。価値や意味というのは、その戦略が実現したい目的や目標の価値や意味です。

どのような背景からその戦略が必要とされているのか。それを実行し、目標を実現することは、何を意味するのか。反対に、実行しなければどうなってしまうのか。

戦略を立てた当事者であれば、こうしたことをよく理解し、心と体で実感しているでしょう。しかし、そのプロセスを共有していない周囲の人には、よくわかりません。

動いてほしい相手には、戦略そのものだけでなく、その価値や意味を伝え、理解してもらい、感じとってもらう必要があります。それができれば、人は動きます。

そのために、戦略を立案する段階から周囲を巻き込むことも必要です。「当事者を増やす」ことは、その後の戦略の実行のしやすさに影響を与えます。

また、社内に大きな変化がもたらされたときは好機です。経営の神様と称されたP・F・ドラッカーは、「イノベーションは予期せぬ事象をきっかけに生まれる」といっています。これは、価値や意味を感じとれる事例や事象が生じないと、本当に大きな変化は理解しきれない、ということだと、私は解釈しています。

こうした変化に乗って周囲を巻き込み、当事者を増やす。価値や意味を感じて動く人が増えると、戦略が動き出します。

【演習問題】

あなたの周りにいる、戦略的に人や組織を動かすことができる人物を思い浮かべてください。その人物たちに共通することは何でしょうか?

いかがでしょうか?

・恐怖感や責任感を軸に動かす人
・魅力的な報酬や達成感が得られる目標を設定して動かす人
・戦略に取り組むことの価値や意味を伝え、感じさせることで動かす人

の3種類のどれかにあてはまるのではないでしょうか。あなた自身は、どの動かし方を実践していますか? また、どの動かし方が必要だと感じていますか?

人の動かし方に答えはありません。組織の状況によっても様々でしょう。状況や相手に応じて手法を使い分けることができる人物こそが、戦略を実行できる人物だといえます。

 

いい質問が人を動かす

ここからは、コミュニケーションのとり方によりフォーカスして、戦略の立案・実行につなげるための「質問力」について触れていきます。質問は大きく3つの種類に分けられます。

・いい質問
・わるい質問
・どちらでもない質問

の3つです。「質問にいいもわるいもあるの?」と思われるかもしれませんが、戦略を実行に向かわせるうえで効果的な質問を「いい質問」、効果的ではない質問を「わるい質問」と考えて解説します。

【演習問題】

次の質問は、それぞれ、「いい質問」「わるい質問」「どちらでもない質問」のどれでしょうか?

a「この目標は必達です。達成できますか?」
b「この目標を達成できたとして、その際のチームの在り方はどういうものだと考えますか?」
c「今のチームの売上は? 目標達成率はどのぐらいですか?」

正解を先にいうと、次の通りです。

a わるい質問
b いい質問
c どちらでもない質問

おそらく、aは、多くのマネージャーが日常的にしている質問ではないかと思います。しかしながら、この質問は、戦略の実行を促すうえでは、いい質問とはいえません。

理由は、「自分のための質問」であり、「相手のための質問」になっていないからです。

そもそも、必達が前提であるならば、「達成できるかどうか」を質問することには、あまり意味がありません。達成状況を確認したければ、cのように事実を問う質問のほうが的確です。

aは、「自分が確認をしたい」「相手に約束をさせたい」という意図が込められた質問であり、関係性によっては相手のやる気をそいでしまう可能性があります。

bは、相手がイメージを膨らませ、考え、現状とのギャップを認識するうえで、効果的な質問です。つまり、「相手のための質問」になっています。

cは、事実の確認をしているので、「いい」も「わるい」も関係なく、組織運営において必要な質問です。 

このように、「いい質問」とは、相手に考えさせる質問、相手に成功に至るイメージを持たせる質問、相手に現状とのギャップを確認させる質問です。反対に、「わるい質問」とは、相手に約束や責任を迫る質問、自分が安心するための質問です。

戦略が実行される組織においては、いい質問が飛び交っています。上司・部下の関係に限らず、同僚同士が互いに質問を投げかけ、相手に貢献します。

その質問の例をいくつかあげておきます。ぜひ、あなたの職場でもこうした質問の投げかけができないか、考えてみるといいと思います。

・「目標に近づくうえで、今、何が妨げになっていますか?」
・「目標の実現に向けて、手を借りられそうな人や組織などの存在は考えられますか?」
・「過去にこのような状況を打開した経験はありますか? そのときはどうされたのですか?」
・「もし最初からやり直せるとしたら、どんなやり方をしますか」
・「もし最も大胆な行動がとれるとしたら、何をしますか?」
・「次のステップとして何が考えられますか?」
・「現状での実現可能性を1~10の数字で表すと、どの程度ですか? そう考える理由は? 10とのギャップをどう埋めていきますか?」

 

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