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日本の雑誌がいち早く取り入れた? 「星占い文化」が広まった意外な背景

鏡リュウジ(占星術研究家・翻訳家)、望月麻衣(作家)

2023年06月13日 公開

日本の雑誌がいち早く取り入れた? 「星占い文化」が広まった意外な背景

『満月珈琲店の星詠み』をはじめ、占星術を元にした作品も多数執筆している作家の望月麻衣さん。実は、占星術研究家・鏡リュウジさんが講師を務める占星術講座を、こっそりオンラインで受講していたのだそうです。

そんなことは知らず、鏡さんは『満月珈琲店の星詠み』を読んで、その"占星術愛"に感銘を受け望月さんにコンタクトを取ったといいます。

そんな、不思議な占星術のご縁でつながった二人によるトークイベントが開催されました。鏡リュウジさんの新著『誕生日事典 366日の「魔法の言葉」』(日東書院本社)発売を記念し、4月頃にイオンモールKYOTO店にて行われた同イベントでは、鏡さんが「星占いのルーツと応用まで」を紐解く、占星術講座さながらの濃厚な内容に! 今回はその一部を、特別にご紹介します。<文:金澤英恵>

 

「占星術」と「二十四節気」には意外な共通点があった

【望月】『誕生日事典 366日の「魔法の言葉」』は、誕生日、366日分のぞれぞれの性格を分析するという大変な作業だったと思うのですが、どんな手法で書き分けされたのでしょうか。

【鏡】普通の星座占いでは、12星座しかありませんからね。どのように書き分けているかというと、実は2つのファクターが入っていまして。1つめが伝統的な占星術の星占い。もう1つは数秘術、いわゆる数占いです。この2つの異なる占いを掛け合わせて、366日分の性格を占っているんですね。

ここで少し質問ですが、「誕生日」の星座について、そもそも疑問に思ったことはないでしょうか? 例えば、5月生まれの方なら自分は「牡牛座」だと知ってはいても、「なぜ牡牛座なの?」というところまでは、きっとご存知ない方も多いですよね。

【望月】当たり前のように自分の星座を受け入れているので、「なぜ?」と言われても「決まっているから」という感じかもしれませんね。

【鏡】そうですよね。もしイメージするとしたら、天体の周期的に「生まれたときに、夜空に牡牛座が輝いていたから」。そんなことを思い浮かべる方が多いかもしれません。

ですが、実はそうではないんです。誕生日の星座とは、「自分の出生時に太陽があった方向」が元になっています。例に挙げた牡牛座なら、毎年5月に「地球から見た太陽」が「牡牛座の方角にある」ということなんですね。ですから、占星術で用いる12星座は「太陽星座」とも呼ばれています。

僕たち占星術師は誕生日をお祝いする際、「ハッピー・バースデー」の他にもう1つ「ハッピー・ソーラー・リターン」というフレーズを使っているんです。誕生日は1年に一度、生まれたときの太陽の位置に太陽が戻ってくるときですから。誕生日は、「太陽回帰」の日でもあるということです。

【望月】星占いにとって、「太陽」がそれだけ重要な星ということでもありますよね。

【鏡】日頃、僕たちが使っているカレンダーも「太陽暦」ですしね。太陽暦は、「地球から見た太陽の位置」が毎年合致するようにさまざまな工夫が施されている暦で、閏年(うるうどし)もその工夫の1つです。

ちなみに日本では、太陽が来る位置を元に、啓蟄、立春、夏至などの季節の移り変わりを表した「二十四節気」がありますよね。この二十四節気の移り変わりの日付を見ると、雑誌の星占いに書いてある、星座から星座へと移り変わる"境界線の日付"と重なるんです。

日本人が昔から使ってきた二十四節気と雑誌の星占いは、太陽の位置を基にしているという点で同じ仕組みだということがわかります。

 

性格占いの原点は、まるで「悪口」!?

「贅沢で不摂生で暴力的」まるで悪口のような性格占い

【望月】占星術で性格を占うという手法は、昔からあったのでしょうか?

【鏡】占星術で占えることには、大きく3つあります。1つめは国家について。これが占星術の始まりでした。2つめは「人生でこんなことが起こります」という予言。

そして3つめが、現在の主流である、「あなたはこんな人です」というキャラクターを占うものです。キャラクターを読み解く星占いの原型は、今から2000年以上前、古代バビロニアからあるにはありましたが、現在のような形で本格的に広まったのは、19世紀末〜20世紀と近代に入ってからなんです。

そもそも太陽星座はさほど重視されていなかったのですが、星座の描写そのものはありました。参考までに、17世紀の占星術のテキストを見ると、結構辛辣なことが書いてあるんですよ。例えば、牡羊座なら、「贅沢で不摂生で暴力的。顔に吹き出物やニキビがある。身長が高すぎることはなく、ほっそりしているが骨は丈夫」といった具合です。

【望月】なんだかひどい言われようです。そして、どちらかというと身体描写なんですね。

【鏡】内面的な描写の表現が豊かになっていくのは19世紀に入ってから。近代占星術の父と呼ばれるイギリスの占星術師、アラン・レオ氏の出版物がその火付け役になりました。

その背景にはさまざまな要因がありますが、1つは「個人」が社会の中で前景化したことがあるでしょう。それまでは、人々は血縁や地縁に縛られ、個人の力では変えられないことがたくさんありました。

ですが、産業革命が起きてから労働力が流動化し、個人の努力が報われるチャンスが出てきた。そこでアラン・レオ氏は、「キャラクター・イズ・デスティニー」、つまり「性格こそ運命」を提唱し、そこから星座占いの性格分析が非常に充実したものになっていったんです。

占星術上の隠れた名著には、イザベル・ペイガンという人物が1900年初頭に出版した『From Pioneer to Poet』という本もあります。この本の中には、各星座を象徴するキャラクターが登場するんですよ。

ちなみに、本のタイトルにもなっているパイオニア=開拓者、ポエト=詩人をイメージに当てはまる12星座はわかりますか?

【望月】開拓者が牡羊座で、詩人が魚座でしょうか?

【鏡】さすが望月先生。そうです。今の星占いでは、「この星座の人は〇〇みたいな人」といった比ゆ的な描写も当たり前になっていますよね。そのはしりとなったのが、『From Pioneer to Poet』だと言われています。

さらに、1968年にアメリカで出版された『Sun Signs』という太陽星座占いの本が大ヒットしたことで、英語圏全体で星座占いが広く普及していきました。

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英語圏よりも先取りしていた! 日本の星占い文化

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