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柳井正「日本は現実を視るべきだ。成長しなければ即死する。」

柳井正(ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長)

2012年09月27日 公開 2022年12月01日 更新

『現実を視よ』(柳井正)

90年代の「バブル崩壊」、そして2000年代に入り起きた「東日本大震災」。言わずもがな、これらの出来事を筆頭に日本経済は悪化の途を辿っている。

ファーストリテイリング代表の柳井正氏は、著書『現実を視よ』にて、経済成長の滞りを良しとする日本社会への疑問を語る。

※本稿は柳井正著『現実を視よ』(PHP研究所)より一部抜粋・編集したものです。

 

ジャパン・ナッシング

1985年のプラザ合意後に起こった急激な円高と低金利政策によって、不動産価格や株価が高騰。日本経済は一気に拡大し、強い円が世界を席巻する。

85年初めに1万1000円だった日経平均株価は、89年末には4万円に届くかというところまで跳ね上がり、サラリーマンや主婦もマネーゲームに興じるようになる。

三菱地所がロックフェラー・センターを、ソニーがコロンビア映画を買収。日本企業による大型海外投資の記事が連日新聞を賑わすのを見て、人びとはこの国の強さを実感した。

ジャパン・アズ・ナンバーワン。

われわれは世界でも有数の金持ち国になった。もう怖いものなし。国民も為政者もそう思い込み、左うちわを決め込んだ。

ところが、それはつかの間のバブル景気でしかなかったことは、ここで言うまでもない。

実体を超えて膨らんだバブルが1990年代に入って間もなく弾けると、日本経済はたちまち収縮しはじめる。89年末に3万8915円の最高値をつけた日経平均株価は、わずか9カ月あまりで半値近くまで暴落。東京や大阪など大都市圏の地価も、一気に下がっていった。

ほんとうならそこで日本人は夢から醒め、覚悟を決めるべきだった。余剰人員を抱えた債務超過企業を整理して、古い産業構造の転換を図り、バブルのツケを積極的に払わなければならなかった。未来に向かって第一歩を踏み出す必要があったのである。

しかし、日本はそれをしなかった。

バブルの残り香に酔い、相変わらず自分たちは金持ちだと勘違いしたまま、努力もしないまま、このまま現状が続くはず、場合によっては、またバブルが来るのではないか――と思ってしまった。

残念ながら、それが何の根拠もない期待であったことは、データを見れば一目瞭然。

日本のバブルが弾けて以降の20年間、中国をはじめとするアジア諸国は、もの凄い勢いで経済成長を遂げてきた。ところが、日本だけが、90年代後半から横ばいを続け、まったく成長していない。

「夢よ、再び」と思っているあいだに、2010年、GDP(国内総生産)世界第2位の経済大国の座を中国に奪われた。

圧倒的な強さを誇っていた日本製の家電製品も、サムスンやLGなど、韓国メーカーの後塵を拝すようになっている。

2012年、巨額の赤字に見舞われたシャープ、パナソニック、ソニーのエレクトロニクス大手3社は、相次いでトップ交代を発表。3社に共通するのは、いずれもテレビ事業の不振。

1980年代には「ジャパン・バッシング」という言葉があった。日本製品の競争力が強すぎて、業を煮やしたアメリカや∃ーロッパ諸国が行なった「日本叩き」のことである。

87年の東芝機械ココム違反事件のときには、ホワイトハウスの前でアメリカ連邦議会の議員が東芝製品をハンマーで叩き壊すパフォーマンスを見せた。巨額の対日貿易赤字が背景にあったといわれる。

ところが、いつの間にか政治も、経済も、日本は素通りされるようになった。

「ジャパン・パッシング」である。

いまでは、それすら過去の言葉となり、「ジャパン・ナッシング」と揶揄されるまでになった。日本は世界から完全に無視される国になった。

 

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