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『現実を視よ』 本書は私の大和魂である

柳井正(ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長)

2012年10月05日 公開 2022年12月01日 更新

『現実を視よ』柳井正著

 

※本稿は柳井正著『現実を視よ』より一部抜粋したものです。

 

本書は私の大和魂である

他人を思いやる気持ち、組織に対する忠誠心、勤勉で努力を惜しまない、清潔できれい好き、謙虚に学ぶ姿勢、異質のものを受け入れて昇華させる懐の深さ、偲び寂びや人情の機微がわかる力……。

私たち日本人は古来から、このような資質を脈々と受け継いできた。歴史を通してこれだけ高い精神性をもった民族は、世界広しといえど日本人以外にはないはずである。

そうした素晴らしい資質を有しているはずの日本人が、断崖絶壁に追い詰められている。国家存亡の危機に立たされている。

この国に必要なのは、国民1人ひとりが自分たちの立場や置かれた状況を正しく認識し、「何よりだめな日本」という現実を直視して、自ら誇りをもって、生きていけるだけの力をつけること。

それは、経済的自立をめざすこと、と言い換えてもいい。自分の足で立ち、自分で生活もできない国が、再び世界に冠たる国家になるなど、とうてい不可能だからである。もう一度稼げる個人、稼げる企業で溢れる国にしないかぎり、この国の破綻は免れない。

2010年に緊急出版した大前研一氏との対談書『この国を出よ』(小学館)にも書いたが、私は政治が大嫌いである。これまで公の場でも、著書でも政治的な発言をすることはほとんどなかった。

日本や日本人については、さまざまな人がさまざまな意見をもっている。私自身の思いを明らかにすることは、ビジネスのプラスにはならない、むしろマイナスになるという経営者としての判断もあった。

だが、もう時間がない。

 

――かくすれば かくなるものと知りながら やむにやまれぬ 大和魂

長州(山口県)の大先人、吉田松陰が詠んだこの歌は、黒船の来航でこの国の将来に大きな危機感を抱いた松陰の思想の根底にあったものが、大和(日本)への思いだったことを示しているのではないか。

いかにこの国を守り、栄えさせるのか。松陰は山口県の萩で松下村塾を営み、多くの指導者を育成。自らの思いを次代の若者たちに託した。その若者たちがこの国の近代化を成し遂げたのである。

 

この本を書くことは、一経営者としては正しい判断ではないかもしれない。だが、書かずにはいられない。

私はこの国に生まれ、この国を愛しているからである。かつてあの時代に、松陰が覚えたであろう危機感を、いま私も強烈に感じている。

1人でも多くの日本人に、その危機感が伝わってほしい。そして誇れる日本を取り戻すには何をすべきか、読者1人ひとりが考え抜いてほしい。

本書は、私の大和魂である。

 

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編集者からひと言

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