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31年ぶりの貿易赤字が示した、「日本経済」の次のステップ

ワールドエコノミー研究会

2012年10月17日 公開 2022年07月13日 更新

 31年ぶりの貿易赤字が示した、「日本経済」の次のステップ

これまで、日本経済は諸外国の貿易取引によって発展した「貿易大国」であったが、2011年の東日本大震災の影響を受けた貿易額の赤字は全国民にとって衝撃的なものであった。

しかし、実際には2005年から貿易収支よりも所得収支の方が上回っていたことをご存じだろうか。ここでは貿易立国から投資立国へと変化を遂げた日本経済の流れを追う。

※本稿は、ワールドエコノミー研究会 著『一目でわかる!世界経済のからくり グローバル時代のヒト・モノ・カネノ流れ』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

「貿易大国」も今は昔

これまで日本は、諸外国との貿易取引によって経済を発展させてきた。

周知のとおり、日本では石油や天然ガスなどの資源がほとんど採れない。そこで資源を海外から買い、得意の技術力で自動車や半導体、電子部品、鉄鋼などの工業製品を製造し、それらを海外に売るというやり方を経済の成長モデルとしてきた。つまり、日本は「貿易立国」なのである。

日本が貿易でどれだけ稼いできたかは、輸出額から輸入額を差し引いた「貿易収支」を見ればわかる。1980年代以降、日本は毎年10兆円前後の巨額の貿易黒字を出し続けていたのだ。

90年代に不況に陥ってからも貿易は黒字が続き、貿易大国の座に君臨。2008年~09年には、世界金融危機や石油価格高騰の影響で大幅に黒字を減らしたが、その後は中国をはじめとする新興国の需要に引っ張られ、ふたたび黒字を拡大させつつあった。

 

貿易大国から貿易赤字国へ

ところが、2012年1月に財務省から衝撃的な発表がなされた。11年の日本の貿易収支が赤字(1兆6165億円)に転落したというのだ。貿易収支が赤字になったのはオイルショック後の1980年以来、実に31年ぶりのこと。日本が貿易大国だと信じていた人々は、目を丸くして驚いた。

それでは、なぜ日本の貿易収支は赤字になってしまったのだろうか。その理由は11年3月の東日本大震災の影響が大きいといわれている。

東日本大震災で工場が被災したため自動車などの生産がストップし、輸出が減少。さらにヨーロッパの債務危機にともなう円高やタイの洪水、中東情勢の混乱などの影響もあり、日本の輸出は一気に縮小した。一方、原発事故の影響で火力発電用の石油や液化天然ガス(LNG)の輸入量は増加した。

輸出が減り、輸入が増える。こうした理由で黒字はなくなり、赤字に転じてしまったというわけだ。

これを受け、政府や民間のシンクタンクは「赤字は一時的なものであり、定着することはない」と発表したが、どうやら一時的なものではなさそうだ。

2012年7月の財務省の発表によると、12年上半期(1~6月)に2兆9158億円の赤字を記録している。半期ベースでも1980年上半期の2兆6217億ドルを上回る、過去最大の赤字になってしまったのである。

専門家は、今後もしばらく赤字が続くのではないかと見ている。輸入が減り、輸出が増えるという日本の貿易状況が変わりそうにないからだ。

まず輸出に関しては、ヨーロッパの債務危機が完全に収束していなかったり、円高が続いているため、不利が解消されない。しかも、日本の製造業は海外に生産拠点を移しており、海外でつくって日本に逆輸入するという動きが定着している。これでは輸出は増えない。

次に輸入に関しても増加が続いている。原子力発電所の稼働停止により、火力発電の燃料となる液化天然ガス(LNG)や原油の輸入が急増しているからだ。

このまま赤字が定着するということは、日本はもはや貿易で稼げないということを意味する。31年ぶりの赤字は日本経済の分岐点となりうる大問題なのである。

 

【わかる解説】 貿易立国から投資立国へ変わる日本

日本の貿易収支が赤字に転落したことを紹介したが、対外的な経済取引には貿易収支のほかにサービス収支、所得収支、経常移転収支などがある。それぞれ何が違うのか。

簡単にいうと、貿易収支はモノの輸出入の収支、サービス収支は海外旅行先での買い物や特許使用料、所得収支は海外に投資をすることで得た利子や配当金、経常移転収支は途上国への経済援助や国際機関への拠出金となる。

そして、これら4つをトータルしたのが経常収支で、経常収支が黒字ならば、輸入より輸出が多く、支払いより受け取りの額が大きいことを意味する。

日本の2011年の経常収支は 9兆5507億円の黒字。貿易収支は 1兆6165億円の赤字だったが、所得収支が前年比 13.1%アップの 14兆384億円だったため、経常収支は最終的に黒字になったのである。

 

すでに貿易立国ではなかった!? 

このように所得収支が貿易収支を上回ったのは、今にはじまったことではない。貿易収支が赤字になったのは11年だが、実は05年から所得収支が貿易収支よりも大きくなっていた。つまり、日本はずいぶん前から貿易で稼ぐよりも投資で稼ぐ「投資立国」になっていたのだ。

この成長モデルでは、すでに成功した海外の企業や、これから大成功を収めそうな企業に投資することで、モノづくりより効率的に利益を得ることが期待できる。

日本の輸出の障害となっている円高も、海外投資では有利になる。日本で製造したモノを輸出しても、現在の円高傾向では儲け分が減ってしまう。過度の円高ではモノを売れば売るほど損をする状態さえ生まれかねない。

しかし、投資で稼ごうと思えば、円高がプラスにはたらく。これまでに蓄えた円を使って投資する際、より多くのドルやユーロなどに変換できるから、大きい投資をより安く行ないやすいのだ。

アメリカやイギリス、フランス、ドイツなどの先進国も、安定的に所得収支の黒字を計上している。日本の所得収支が大きくなっていることは経済の成熟ぶりを示すものといえるのかもしれない。

 

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