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[戦略シナリオ]を立案するポイント

野口吉昭(HRインスティテュート会長)

2013年02月13日 公開 2022年11月10日 更新

『30ポイントで身につく!「戦略シナリオ」の技術』より》

大胆で繊細、ホットでクールに考える

■右脳と左脳を行ったり来たり

戦略を構想する前提として、まずは「ありたい姿」を明確にすることが必要であると述べました。その「ありたい姿」は、大胆に、かつ繊細に描くことが大切です。

大胆に考えること。戦略とは“フォーカス&ディープ!”。どこに資源を集中し、どこを意図的に切り捨てていくのか――そのメリハリをつけることが戦略の重要なポイントとなります。そのため、時に大胆ともいえるような割り切った判断が求められます。

一方、大胆さだけで適切な目標や戦略が設定できるかといえば、そうではありません。当然、大胆さとは真逆の繊細さも必要になります。

ソフトバンクの孫氏は、ビジネスを考える際に、右脳と左脳を行ったり来たりしながら考えるそうです。

ちなみに、

・右脳=直感、感覚
・左脳=論理、事実

といったように、果たす役割やその特徴に違いがあるといわれています。言い換えるならば、右脳は大胆さ、左脳は繊細さ。孫氏は、ビジネスを考える際は、まず右脳で大胆に発想を広げ、ワクワクし、そして、その次に左脳で繊細にビジネスの可能性をチェックしながら、最後にもう一度、右脳で大胆に意思決定を下すといいます。このように相反する思考特性を両立させることで、大胆な目標が現実的なものとなっているのでしょう。 

■[実践のコツ] 常に最悪の状況を想定しながら、ポジティブに考える

では、大胆で繊細、ホットでクールな発想をするためにはどのようなことを心がけるべきなのでしょうか。

1.ネガティブ・ワードを使わない

「できない」「あり得ない」「無理」など、否定的な言葉のことをネガティブ・ワードといいます。これから大胆な発想をしようとしているときには、こうしたネガティブ・ワードを使うことは避けるべきです。「無理」だという前に、「では、どうすればできるようになるか?」といったように、ポジティブな発想を心がけるようにしましょう。本当にできないことであれば、「○○ならできる」と読み替えてみましょう。すると、糸口が見えてくるものです。

とても有名な話ですので聞いたことがある方も多いと思いますが、靴を売るビジネスを展開しにある地域の先住民族の住むエリアに行った場合を考えてみましょう。人々は靴を履いておらず、みな裸足だったとしたらどのように考えるでしょうか。

そこで「だめだ。これでは靴は売れない」と考えるか、「おもしろい。これなら靴を売り放題だ」と考えるか。当然、後者の人のほうが大胆な発想、ポジティブな発想をしています。ネガティブに捉えること、表現することを意識的にやめてみる。すると、ポジティブな解釈にたどり着きやすくなるのです。

2.他人の意見に謙虚に耳を傾ける

仕事柄、多くの経営者、経営層の方々とお会いすることがあります。その中でよく感じることは、経営者や経営層の方々は、大胆さや実績からくる大きな自信を兼ね備えている一方で、驚くほど謙虚だということ。中には「ふんふん、それで?」とメモを一生懸命にとられる方もいらっしゃいます。こうした方は、他人に意見やアドバイスを求め、自分の考えと照らしあわせたうえで、相手の意見や考えを活用しようとされています。おそらく、自分一人で突っ走ってしまい、裸の王様にならないように、冷静に他人の意見に耳を傾けているのでしょう。

3.常に最悪の状況を想定しておく

大胆な発想を行なうには常に最悪の状況を想定し、準備しておくことが大切です。企業にとって最悪の状況とは倒産を意味します。もちろん、この状況だけは避けなければなりません。それでも、「倒産するかもしれない」という認識は常に持ち合わせておかないといけません。そうでなければ、倒産が現実にならないように準備することはできないからです。

「意思決定」に正解はありません。大胆な発想をする際には、最後は自分の意志、覚悟が求められるのです。「よし! やるぞ!」と腹を括る。しかし、これはとても恐いことです。そして、難しい。もし失敗したら……という状況が頭をよぎることでしょう。この恐怖が意思決定をためらわせる原因となってしまうのです。

大胆な発想や決断ができないときは、最悪の状況を想定してみましょう。そしてそのときどうすべきか、対策を考えられるだけ挙げておくのです。するとどうでしょう? 案外「生き抜く道はあるもんだ!」と思えるかもしれません。

スペインの格言に次のような言葉があります。

「“生”を輝かせるには、“死”を強く意識することだ」

大胆さと緻密さを備えた人には、この言葉の意味がよくわかるはずです。

 

<企業実践ケース>「オリエンタルランド」

2011年3月11日の震災時の対応が高く評価された企業がいくつかあります。その中の1つ、東京ディズニーリゾートのキャストが見せた姿は、多くの人に繊細なマネジメントの必要性を痛感させたに違いありません。キャストが見せた行動の一部を挙げると、

・震災直後、ゲストを安全な場所に誘導し、待機させた
・落下物に備えるため、店舗内にあるぬいぐるみをゲストに配布した
・小さいゲストからの「お兄さんはどこに住んでいるの? おうちに帰っちゃう?」という質問に対して、「大丈夫、お兄さんのうちはここだからずっと一緒にいるよ」と返答した

アルバイトとして雇用されているキャストが見せたこうしたプロ意識は多くの人に感動を与え、「まだまだ日本も捨てたもんじゃない!」という勇気を届けたことでしょう。

ではこうした行動の裏側には何があるのでしょうか。それは、普段、ゲストに提供している姿の裏側にある徹底した仕組みです。

東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドでは、キャストに対してディズニーテーマパークが示す「SCSE」という行動規準を日常的に徹底、浸透させています。

SCSEとは、Safety(安全)、Courtesy(礼儀正しさ)、Show(ショー)、Efficiency(効率)の頭文字をとったもので、全キャストにとって、ゲストに最高のおもてなしを提供するための判断や行動のよりどころとなっています。そして、SCSEは、その並びがそのまま優先順位を表しています。

たとえばこぼれたジュース等の清掃を行なうカストーディアルキャストは、しゃがんだ姿勢で路上を拭くことはせず、立ったまま足を使って拭き取るよう教わっています。これは、しゃがんだ状態では、周りに気をとられているゲストが気づかずにぶつかり、転んでしまう可能性があるので、それを防ぐためです。

日常的にこうした行動規準に則って育成されているキャストにとって、震災で見せた行動は当たり前のことだったのです。

普段魅せる大胆さ、華やかさの裏側には必ず緻密さが求められます。この2つは車の両輪であり、どちらも欠かすことができない要素です。戦略的に考え、行動し、信頼を継続するためにとても大切なことを、東京ディズニーリゾートのこうした取り組みは教えてくれています。

<Point>大胆さ、華やかさの裏側にある緻密さに徹底してこだわろう!

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