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「凹(ヘコ)まない」技術 ― ヘコんだときには、さっさと寝る!

西多昌規(精神科医/医学博士)

2013年03月05日 公開 2022年11月10日 更新

◇◇ お気に入りの曲の歌詞や映画のセリフなどもおすすめ ◇◇

ただ、一般人の場合は、そうカッコいいセリフを準備できているわけではありません。「あなたの座右の銘は何ですか?」と訊かれて、すべての人が即答できるわけではないでしょう。

座右の銘といった、大げさなものである必要はありません。「ヘコんだ」ときに自分を励ましてくれる、お決まりの「定番フレーズ」を持つということは1つの有効な作戦です。短いお気に入りの言葉が、いちばん向いています。

FMの音楽番組などを聴いていると、リクエストの理由には「落ち込んだときに励ましてくれる」「失恋したときに聴く」など、励ましを求めるものが多い印象があります。実際、「ヘコんだ」ときに、音楽から強力な復元力をもらっている人も少なくないでしょう。

自分の気に入った、心に残る歌詞の一節、それでまったく構わないのです。小難しい格言じみた座右の銘よりは、自分だけの気持ちに響く言葉のほうが、よほど実際的です。手帳などに書き留めておくのも、野球選手のマネではないですが「ヘコまない」習慣と言えます。

もちろん、歌詞である必要はありません。映画などのセリフも、なかなかいい材料です。わたしはガンダム世代なので、「ヘコんでくじけそうな」ときには、『機動戦士Zガンダム』の最終話でクワトロ・バジーナ大尉が放つ「まだだ!まだ終わらんよ」というセリフを思い出しています。ガンダムファンだけにしかわからない話で恐縮です。

話は脱線しましたが、自分を励ます「定番フレーズ」、1つでいいので意識してみましょう。新たに探すよりも、過去に見たものや読んだもの、聞いたものから見つけるほうが、親近感を持ってつき合うことができると思います。

仕事でくじけることが多い人はオフィスに、育児や家事で心が折れそうになる人は台所にこっそりと、紙にでも書いて貼っておきましょう。

 

さっさと寝てしまう

わたしの本では定番の助言ですが、「ヘコんだ」日の夜は、さっさと寝てしまいましょう。睡眠には、「ヘコみ」を跳ね返すパワーが備わっています。

「最近ツイてなくて、ヘコむことばかりだなあ」とボヤいている人は、確かにツイていないのかもしれません。しかし中には、知らず知らずの「睡眠不足」によって、「ヘコみ」やすくなっているだけという人もいるでしょう。

「睡眠不足症候群」の人が、わたしの勤務する睡眠専門クリニックでも増えてきています。「睡眠不足症候群」とは、慢性的に睡眠が不足していることによって、日中の強い眠気や頭痛、だるさなどの体調不良が3ケ月以上続いている状態を言います。イライラや落ち込みといった症状も珍しくありません。

2010年のNHK放送文化研究所による調査では、日本人の睡眠時間は7時間14分でした。1960年の調査では8時間13分ですので、約50年で睡眠時間は約1時間も減ってしまったことになります。特に40代と女性の睡眠時間の減少は著しいものがあります。後者に関しては、女性が仕事、家事の両立を強いられるなか、男性の家事への協力が進んでいないことが一因とも分析されています。

長い労働時間の割を食う形で、日本人は、眠れなくなってきているわけです。非効率な長時間労働→成果が出ず「ヘコむ」→遅い帰宅で睡眠不足→ますます「ヘコみ」やすくなる、まさに負のスパイラルです。

◇◇ 睡眠には「ヘコんだ」こころを回復させる効果がある ◇◇

カリフォルニア大学バークレー校のグループが2011年に発表した論文によると、「夢を見る睡眠」であるレム睡眠の間に、不快な感情的記憶が和らぐはたらきがあることが示されました。

また、脳機能画像によって、恐怖や不愉快な感情の源である脳の扁桃体の活動が、睡眠によって大きく低下することもわかりました。

「イヤなこと」「ヘコむこと」は寝て忘れるという科学的根拠は、この論文だけでなくほかにも数多く発表されています。睡眠に、からだだけでなく「へコんだ」こころも回復させるヒーリング効果があるのは間違いなさそうです。

逆に考えると、睡眠不足の日本人は「ヘコみやすく」なっているのかもしれません。夜の睡眠を妨げるものは、次から次へと発売されています。タブレット型のパソコンやスマートフォンは、ブルーライトを発することで、人間の睡眠リズムを乱してしまいます。便利になる一方で、ますます睡眠不足が深刻になり、「へコみやすい」精神構造ができているわけです。

「日中眠くて仕方がない」「会議などですぐに眠ってしまう」「朝、頭が重い」「休日は普段より3時間以上寝坊している」。これらが当てはまれば、「睡眠不足症候群」の疑いがあります。もしも睡眠不足ならば、「ヘコんだ」記憶はうまく脳内で睡眠中に処理されないことになり、ますます「ヘコみやすく」なるという悪循環に入ってしまいます。

「ヘコむことがあった日は、さっさと寝る」

シンプルですが、実は科学的叡智が詰まった知恵なのです。

 

西多昌規

(にしだ・まさき)
 
精神科医・医学博士、自治医科大学精神医学教室・講師

1970年、石川県生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業。国立精神神経医療研究センター、ハーバード・メディカル・スクール研究員を経て、現職。日本精神神経学会専門医、睡眠医療認定医など、資格多数。スリープクリニック銀座でも診療を行うほか、企業の精神科産業医として、メンタルヘルスの問題にも取り組んでいる。
著書に『「器が小さい人」にならないための50の行動』(草思社)『「昨日の疲れ」が抜けなくなったら読む本』『「月曜月がゆううつ」になったら読む本』(以上、大和書房)『水曜日に「疲れた」とつぶやかない50の方法』(朝日新書)などがある。
[著者のブログ] http://masakinishida.blog109.fc2.com

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