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滋賀ダイハツ販売・人間の幸せを追求する経営姿勢

2013年03月12日 公開

後藤敬一(滋賀ダイハツ販売社長)

『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』2013年3・4月号Vol.10 より》

謙虚に学び、素直に採り入れる

環境問題、資源問題、長引く世界的不況、国際摩擦、若者の自動車離れ等々、日本の基幹産業である自動車業界には、さまざまな深刻な問題が横たわっている。
ところがそうした厳しい状況下にありながら、滋賀県内で40年以上にわたって新車販売台数トップを維持し続けている自動車ディーラーがある。36歳の若さで6代目社長に就任し、滋賀ダイハツ販売を牽引してきた後藤敬一氏に、企業が元気であり続ける秘訣、同氏の経営者としての原点を語っていただいた。 <取材・構成:森末祐二/写真撮影:高橋章夫>

 

外の世界を経験してから祖父がつくった会社に就職

 滋賀県の膳所高校を卒業したあと、私は静岡大学農学部に進学しました。農学部を選んだのは、自然を愛する気持ちが強かったからです。音楽も非常に好きだったことから、学生時代はバンド活動を楽しんでいました。大学卒業後は、電子楽器メーカーである静岡のローランドという会社に就職しています。当時、滋賀ダイハツ販売を継ぐ考えは持っておらず、親からも何も強制されることなく、ただ自分が好きな道を選んだのです。

 ローランドで働き始めて4年ほど経ったある日、父の昌幸から一本の電話がかかってきました。会社を辞めて滋賀県に戻ってこいという話でした。一般的に、就職して5年目あたりで何らかの役職がつくことが多いものですが、そうなってから辞めると会社に多大な迷惑をかけることになってしまいます。父はそのタイミングを見計らって、まだ平社員のあいだに呼び戻そうとしたようです。

 私は逡巡しましたが、父から「この会社はお前のおじいさんがつくったんだぞ」と言われて、気持ちが大きく変化していくのを感じました。自分がこの会社を守っていくのだという自覚が芽生えた瞬間でした。そして1984年、26歳で故郷に帰り、滋賀ダイハツ販売に入社したのです。

  (中略)

社員の幸せを第一に考える

 長浜の子会社で1年と3カ月、貴重な経験を積んだ私は、1994年4月に本社復帰し、同年10月に行われた創業40周年記念式典において社長に就任しました。このときまでに、私は自分なりに経営ビジョンにあたるものをつくろうと思いました。

 そこで、当社を創業した祖父が、草創期に何を願っていたのかを想像してみたのです。熟慮を重ねるうちに、5つの幸せを実現しなければならないという結論に達しました。これを「五幸」と名づけ、前述の式典における社長就任あいさつの中で、次のような形で発表したのです。

 五幸
 (1)お客様の幸せ
 (2)取引店の幸せ
 (3)ダイハツグループの幸せ
 (4)社員の幸せ
 (5)地域の幸せ

 人間は幸せを追求して生きる存在であり、顧客満足第一主義の考え方に基づいて努力すれば、事業は必ずいい方向に進んでいくと思っていました。ところが現実にはそうはいかなかったのです。顧客満足を優先すればするほど社員の苦しみが増していき、相次いで数人の退職者を出してしまいました。このときは多くの社員に無理をさせてしまったのかもしれません。また、私が社長に就任した年、ライバル他社が発売した新型車が大ヒットしたことで、ダイハツ車全体の売上が下がっていきました。新米社長である私は、いきなり苦境に立たされたといえます。

 そんなとき、「日本経営品質賞」の講演会に行く機会があり、そこで「社員の幸せをいちばんに考えないといけない」という話を聞きました。いわく、「お客様は、自社のサービスや商品に満足できなかったとしても、他社で満足を得ることができる。しかし、社員が自社に不満を感じたとしても、簡単に他社に移ることはできないし、たとえ転職しても満足を得られる保証はない。だとしたら、まず第一に社員の幸せを実現するべきである」という内容でした。私は目が覚めるような思いがしました。そこで「五幸」の文言を少し変え、優先順位を次のように変更したのです。

五幸の基本方針
 (1)社員の幸せ
 (2)お客様の幸せ
 (3)お取引店様の幸せ
 (4)ダイハツグループの幸せ
 (5)地域の人々の幸せ

 ともに働く仲間であり、ファミリーである社員の幸せを実現すれば、当然仕事へのモチベーションが高まります。社員の熱意が高まれば、サービスは向上し、結果として顧客満足も向上していきます。満足度が向上することによって、多くのお客様がリピーターとなってくださり、業績も向上していきます。企業活動とは本来こうあるべきではないでしょうか。ここにきて、私はようやく大切なことに気づいたのです。

 当社の社長になって、経営の厳しさにあらためて気づかされてから、私は鍵山秀三郎さんの「掃除に学ぶ会」の全国大会に参加するなど、長浜時代よりももっと本格的に掃除哲学の実践に取り組みました。もちろん掃除をしたからといって、すぐに翌日から売上が上がるわけではありませんが、快適な職場環境、美しい店舗環境をつくっていくことで、社員もお客様も幸せを感じられるようになるのは間違いありません。こうした考え方や意識が社員に浸透していくに従って、当社は着実に成長できたものと考えています。

他社を真似ることをいとわない

 経営ビジョンの制定や掃除への取り組みだけでなく、実際のビジネスも具体的に進歩向上させていかなければなりません。その点、私のやり方は明快でした。長浜時代に、鍵山さんの「掃除」や坂田さんの「ハガキ道」を始めたときと同じように、「いいものは素直に採り入れる。そのままそっくり真似をすればいい」ということです。

 真似をするのは恥ずかしいことだ、という見方もありますが、私は決して恥だとは思っていません。すぐれた方法や考え方があれば、これを謙虚に学び、一所懸命に実践して皆様に喜んでいただくということであり、音楽や美術作品、文学作品の盗作のように、作者に迷惑をかけたり損害を与えたりする悪質な行為ではないからです。当然、成功事例から学ぶのですから、会社の業績アップにも大きな効果が期待できます。

 いくつか実例を挙げてみましょう。

 例えば、父に紹介されたことがきっかけで、ホンダクリオ新神奈川(現・ホンダカーズ中央神奈川)の相澤賢二社長(現・会長)を訪ね、いろいろと教えを請うことができました。ホンダクリオ新神奈川といえば、顧客満足度日本一のディーラーとして知られ、かのカルロス・ゴーン氏も見学に訪れたことがあり、業界では知らない人がいないくらいの有名店です。

 同店を訪れて驚いたのは、自動車ディーラーでありながら、店内に自動車を展示していなかったことでした。また、自社の自動車のポスターも貼っていません。その代わりに絵画を飾るなどして、ゆったりと過ごせる「寛ぎの空間」がつくられていたのです。

 私はこれをすぐに採り入れ、全拠点で「ショールームのカフェ化」を推進しました。これにともない、お客様宅を一軒一軒訪ねる訪問営業ではなく、お客様にディーラーまでご来店いただく「来店型営業」を徹底追求したのです。

 店内には椅子やテーブルを並べ、無料ドリンクを数種類用意し、マンガや雑誌も置き、小さなお子様が遊べるキッズスペースもつくりました。こうした一連の取り組みにより、ダイハツの主力製品である軽自動車を購入される女性客やお子様連れのお客様に、たいへん喜ばれるようになりました。ディーラーには、商談に訪れるお客様だけでなく、オイル交換といった愛車のメンテナンスに訪れるお客様もいらっしゃいます。そうした方々に、作業をしている数十分のあいだでも、楽しく過ごしていただくことができるのです。

 また、別の自動車ディーラーを見学した際には、非常に画期的な「30分車検」と、「女性スタッフによる女性客のためのイベント」を勉強させていただき、当社でもそのまま導入しました。

☆本サイトの記事は、雑誌掲載記事の一部分を抜粋したものです。記事全文につきましては下記本誌をご覧ください。(WEB編集担当)

 

後藤敬一

(ごとう・けいいち)

滋賀ダイハツ販売社長 

1958年生まれ。静岡大学農学部を卒業後、ローランド株式会社に就職。’84年に滋賀ダイハツ販売株式会社に入社し、営業などいくつかの部署で勤務したのち、子会社に出向し経営者としての経験を積む。’94年社長に就任後、さまざまな改革に柔軟に取り組んで業績を伸ばし、自動車業界において独自の存在感を放っている。


<掲載誌紹介>

『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』
2013年3・4月号Vol.10

2013年2月27日発売

<今号の読みどころ>
 3・4月号の特集は「商いの原点」。松下幸之助は生涯、一商人としての観念を持ち続け、自社の社員に、あるいは系列店の店員に、その心得を説き続けた。お客様に喜んでいただくこと、取引先と共存共栄すること、適正利益をきっちり確保すること、社会にプラスを与えること、みずからが喜びを感じて仕事ができること、そして、新しい商品・新しいサービスを発意し続けること……。では、ITの発達やグローバル取引の活発化など、大きな変貌を遂げつつある現代の商いで大事なことは何だろうか。本特集では、歴史を眺め、あるいは現代日本企業の現場で活躍する人たちの事例を見ながら、商いの原点を考えてみた。
 そのほか、世界的な建築家・安藤忠雄氏と、住宅業界のトップリーダー・大和ハウス工業会長の樋口武男氏の対談は見どころ。

 

BN

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