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生き方

茂木健一郎「脳の働きを変える一番いい方法は、“感動する”こと」

茂木健一郎(脳科学者)

2013年05月14日 公開 2022年06月30日 更新

 

心が揺れ動くときは、アクセルを踏む

脳の中には、100種類の神経伝達物質があります。ドーパミン、グルタミン酸、ギャバ、ベータエンドルフン、セロトニン――、いろいろな神経伝達物質があって、われわれの脳の中で、その化学物質が、いわばシンフォニーを奏でています。感動する、大きく楽器を鳴らすということは、その化学物質がザワザワザワーッと脳の中の1000億の神経細胞の間を、走り回っているような状態です。

そのとき、われわれの脳は変化する。その神経伝達物質は、脳が自分で分泌する化学物質であり、外から入ってくるものではありません。

したがって、どういう化学物質が、どういうタイミングで分泌されるかは、体験している現象に対して、われわれがどれくらい脳を共鳴させているかによって、変わってきます。

さきほどの小林秀雄さんが、講演で「君子欺くべし」ということについて語っています。小人は、いつも「騙されまい」とビクビク身構えているから、そう簡単には騙されない。

でも、君子はコロッと騙されるものだというのです。本当にそうだと思います。しかし、ずっと騙されっぱなしということではありません。それでは愚かですから。1度は騙される、ということです。

少し補足しますと、人間にとって「恒常性」は、たいへん大事です。脳の機能の中でもっとも大事なものを1つ挙げろと言われたら、いろいろなものが挙がるでしょうが、その中に恒常性が入るのは間違いありません。

感動するということは、自分がよろめいて、揺るがされているということ。涙が出るということは、処理できないくらい多量の情報を、脳が受け取って、オーバーフローすること。どうしようもないことを、なんとか処理しようとしている結果です。

涙は産出物ですから、脳が、何かを外に出している。情動系が、感情が、あまりにも巨大なものを受け取ってしまったがために、どうすることもできなくて、涙が出る。そのことで、なんとか恒常性が維持される。

ですから、小林秀雄さんにしても、ライアル・ワトソンにしても、とてつもなく恒常性の強い人、言い換えれば、強い芯がある人です。だからこそ、1つひとつの局面では揺れることができる。

ですから、揺れ動くときには、思いっ切り揺れ動かないとだめなのです。アクセルを踏みつ放しにしないと、脳が本当には変化できないのです。

朝日新聞の日曜版に、「ホタルの木」という記事が出ていました。

インドネシアなどで、無数の蛍が集まる木があるそうです。その蛍の木は、どこにでもあるわけではなく、気象や月齢など、さまざまな条件がうまく一致したときに蛍が集まってきて、何十万匹、何百万匹が一斉に光る。

その1、2週間後ぐらいの朝日新聞に、また「ホタルの木」の話が出ていました。どういう話かというと、戦争中、南方戦線に送られた日本の兵士の方々が、たいへんな苦労をされた。その方々が、蛍の木を見たのです。

でもそのときは、何か意味がわからなかった。光っている木が確かにあるのだけれども、自分たちは、明日をも知れぬ命です。そういうときに、木が光っているのを見て、あれは何なのだろう、とずっと不思議に思ってきた。

戦後60年以上が過ぎましたが、その記事ではじめて、60年以上前に見た、光る木が何だったのかがわかったという手紙が新聞社に送られてきて、掲載されたのです。

私は感動して、心の底で、何かが動く気がしました。そういうときに冷めた反応をする人はだめです。私もいろいろな人を観察してきましたが、そういう人は、自分の中に何かとても弱いものがある、あるいは、何か自分を守ろうとしている人が多いように思います。

強い人ほど表面は柔らかく、揺れ動くことができる。そして、そういう人のほうが得をします。なぜなら、それだけ、自分を変えるきっかけがあるからです。

芯が弱い人は、表面をガチガチに固めて、それを守ろうとしてしまう。せっかく変わることができるチャンスがあるのに、それを逃してしまうのですから、実にもったいないことだと思います。

変わるためにどうしても必要なことは、自分の心を開くこと、そしてなるべく恐れをなくして、その状況の中に飛び込むことです。

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