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【連載:和田彩花の「乙女の絵画案内」】 第3回/モネ『舟遊び』

2013年10月25日 公開

和田彩花(アイドルグループ「スマイレージ」リーダー)

モネ,舟遊び

クロード・モネ(1840-1926)

印象派を代表する巨匠の一人。自然における光の美しさに強く惹かれ、その探求と表現に生涯を捧げた。1840年にパリで生まれ、ノルマンディー地方にあるセーヌ河口の港町ル・アーヴルで育つ。18歳のとき、対岸で活動していた風景画家ウジェーヌ・ブーダンに教えを受け、戸外での制作を始める。パリの画塾アカデミー・シュイスではピサロと出会い、画塾シャルル・グレールでは、ルノワールやシスレーなどと親交を結んだ。1872年には、代表作『印象、日の出』(マルモッタン美術館蔵)を制作。1874年の第1回印象派展に出典され批判を受けるも、この作品にちなんで「印象派」と呼称されるようになる。晩年はセーヌ下流のジヴェルニーに定住し、『睡蓮』の連作などを手がけた。

 

第二、第三印象の大切さ

 

 印象派の絵は、日本でもとても人気が高いのですが、じつは最近まで、あまり好きではありませんでした。

 「印象派の父」と呼ばれるマネの絵が好きになって絵画に興味をもったのに、その息子ともいえる画家たちには、なぜか興味をもてなかったんです。

 絵のタッチがなんだかゴツゴツ、ペタペタしていて、その雰囲気がどうしても好きになれませんでした。実際に本物の絵を観に行ってみても、描いている絵筆の跡が残って見えるようなタッチがますます際立っています。

 「いったいこの絵は何を描いているんだろう?」と感じてしまって、これなら実物より画集を観たほうがきれいだなとさえ思っていました。

 それが最近になってようやく、いかにも印象派らしい、色彩を分解して油絵の具を重ねていくようなタッチの素晴らしさに気づいたのです!

 お菓子でも、最初は甘すぎ! と思ったものが、食べているうちに次第にその甘さに慣れ、いつのまにかすっかり好きになっていることってありますよね。

 同じように、何度も観ているうちに、印象派の画家たちのゴツゴツ、ペタペタしたタッチが気に入るようになっていきました。このあたりから、モネは一気に大好きな画家になったのです。

 いまではモネ以外にも、色彩を分解していく理論を究めた、スーラやシニャックといった点描法の画家たちの絵も大好きです。

 絵を観るときには、第一印象も大事ですが、第二、第三印象も大切なんですね。直観で「これは好き! この絵は好きじゃない!」と思ったとしても、時間が経つにつれて「この絵はこんなところがすごいんだ」と気づいて、次には「なんてきれいな絵なんだろう」と感動を連れてきてくれるんです。

 食わず嫌いのように、最初の印象だけで避けているのはもったいないと思います。モネが好きになれなかったころの私は、何もわかってなかったなあって感じです。

 モネと並んで印象派を代表するゴッホも、同じように最近まで受け入れられず、「なんであんなにゴツゴツした絵を描くんだろう? もっときれいに、繊細に描けばいいのに」とか思っていたくらい。

 私のなかの絵における“きれい”の定義は、印象派を理解することで、大きく変わったと思います。きれいにも、いろんな種類があったんです!

 印象派の絵は、私の世界を広げてくれました。

 

近すぎると見えないもの

 

 モネの『舟遊び』は、国立西洋美術館の常設展示で出会いました。

 初めて実際に観たとき、ボートの下に描かれている赤い線のようなものが見えて、なんだか邪魔だなあと感じたのを覚えています。

 「これ何だろう? 何で赤をここに描くんだろう」って。

 でも、少し離れて観てみると、その赤がとてもいい感じに絵を成立させていたんです!

 周りの風景が描かれていなくても、この赤の存在だけで、絵は成り立つんじゃないかとさえ思ったほど、効果的にボートの動きや光のきらめきを表現していたんですね。

 絵画に近づいてじっくりディテールを観るのも楽しいですが、少し距離を置いて全体のバランスや絵の雰囲気を観るのも、また新しい発見があって、絵画鑑賞が楽しくなります。

 美術館によっては、椅子やベンチが部屋の中央に置かれているので、そこに座って好きな絵を観てみる。近くだと見えなかったものが見えてきて、おもしろいんです。

 赤い線は舟の影なのでしょうか?

 だとしたら、なぜ赤?

 邪魔だなあと感じていたものが、正反対の不可欠な存在に思えるくらい、きれいなものとして見えるようになる。気持ちが一瞬のうちに変化して、まるで魔法にかかったようでした。それが印象派の画家であるモネのマジックだったんですね。

 『舟遊び』を観たことで、日本にもたくさんいい絵があるんだということもわかりました。それまで企画展を中心に絵画鑑賞をしていたのですが、常設展は企画展に比べて圧倒的に空いています。「舟遊び」の赤の線の発見も、混んでいる美術館では無理だったかも。そうなると、私と印象派のあいだには、まだ距離があるままだったかもしれません。

 絵に近づいて観るもよし、離れて観るもよし。思う存分、絵画鑑賞を楽しむことができますよね。日本の美術館にももっと通わなくちゃ!

 私もいろいろな美術館をこれから順番にまわっていこうと思っています。

 

時代を切り拓いた画家たち

 

 印象派の画家たちは、たとえばフェルメールのように繊細なタッチでは絵を描きません。筆で描いていることがわからない写実的な絵とは違って、ササッと思い切りよく絵筆をキャンバスにすべらせているようです。

 この絵でも、水面に白い絵の具が無造作にポンポンポンと置いてあります。

 でも、とてもきれいな水辺に見えますよね。

 描いているモネもきっと、とても気持ちがよかったんじゃないかな。その気持ちよさが、観ている私にまで伝わってきます。

 繊細さに欠けるから好きじゃないと、勝手にダメ出ししていた印象派の絵のタッチですが、いったん好きになると、今度は逆にこれこそ繊細な表現なのではとまで思えてきました。

 ゴツゴツした感じが、水面の微妙な立体感や動きをリアルなものに感じさせてくれるからかもしれません。

 いきなり好きになるなんて、われながら勝手なものです。でもそんなふうにして、新しい魅力に気づいていくのが、絵画鑑賞の醍醐味だと思います。

 印象派の画家たちって、ほんとうにすごいです。それまでの絵のタッチと根底から違う描き方をしてしまった。

 どんな世界でもそうですが、いままでだれもやっていなかったことを成し遂げた人って心から尊敬します。新しいことを始めると批判を受けることも多いのに。

 日本では印象派がとても人気なので、印象派は美術のスタンダードで、絵画の世界にとって当たり前のものとして感じられている方も多いかもしれません。じつは印象派の画家たちは、批判に負けない勇気ある芸術家だったのです! でも、そんな勇気以上に、絵を描くことが気持ちよくて楽しくてしかたなかったのかなとも思います。

 描いた当時の気持ちよさを追体験できる。絵を描くことが楽しいことだと教えてくれる。それが、美術における新しい発見だったのかもしれません。

 絵を観ている人たちも、新しい絵の登場を心の底では望んでいたのかも。そういう時代の流れのなかで、「印象派の父」としてマネが颯爽と登場しました。

 マネが描いた『草上の昼食』(オルセー美術館蔵)のように、現実の裸の女性を描いたとういうことだけでスキャンダルになったりする時代のこと。モネたちが、大胆に時代を切り拓いていくマネを最高の師匠として尊敬した気持ちを、とても理解できます。

 モネも、マネから強い刺激を受けて、『草上の昼食(習作)』(プーシキン美術館蔵)を描きました。歴史を古典的に描くのではなく、いまここにある光景をそのまま描くといった、現代的なアプローチを試みたのです。

 

「気持ちいい」を伝えたい

 

 話を『舟遊び』に戻しますね。二人の女性は、モネが再婚した女性の子どもたちだそうです。

 フランス北部のジヴェルニーに新しい家族と移り住んだモネは、ここで舟遊びを題材にした絵を多数描きました。その1点がこれです。

 当時の素敵な休日の過ごし方だったのでしょうね。モネがたくさん舟遊びを描いていることから、そんな想像ができます。

 水辺は私も大好きです。気持ちがいいし、涼しいし。私も小さいころ、池でよくボートに乗りました。でも、その記憶とこの絵の印象はずいぶん違います。ロングスカートをはいて舟に乗って、洋服が水にぬれたりしないのでしょうか。

 この時代にはミニスカートはないですよね。

 日本一スカートが短いアイドルグループの「スマイレージ」が、この時代の舟遊びのボートにタイムスリップしたら、それこそ大騒動なんじゃないかな。

 モネは私たちのことも描いてくれるでしょうか。もし描いてくれたとしたら、マネの『草上の昼食』もびっくりのスキャンダルになるでしょうね。

 モネや印象派の画家たちは、目に見えたものすべてをキャンバスに描くだけでなく、感じたことすべてを絵に描きたかったのではないでしょうか。それを、観ている人にも伝えたかった。

 だからこそ、ゴツゴツ、ペタペタした絵筆のタッチが必要なのかもしれません。画家が絵を描いている姿まで感じてもらうためにも、その痕跡を見せてしまうのです。

 モネが絵を通して伝えたいものは、その場の空気感のようなもの。だから、絵に登場する人物の顔を、描きこまなかったのではないでしょうか。

 表情をはっきりと表現しないことで、あえて現実感を与えすぎず、モネが感じている気持ちのよさや空気感を観る人に伝えてくれている。そう、私は感じるのです。

 

<著者紹介>

和田彩花和田彩花

(わだ・あやか)

1994年8月1日生/A型/群馬県出身

ハロー!プロジェクトのグループ「スマイレージ」のリーダー。

2009年、スマイレージの結成メンバーに選ばれ、2010年5月『夢見る 15歳』でメジャーデビュー。同年の「第52回輝く!日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。近年では、SATOYAMA movementより誕生した鞘師里保(モーニング娘。)との音楽ユニット「ピーベリー」としても活動中。高校1年生のころから西洋絵画に興味をもちはじめ、その後、専門的にも学んでいる。

スマイレージ公式サイト
和田彩花オフィシャルブログ「あや著」

 

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