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元ヤクルト宮本慎也の「意識力」-意識ひとつで結果は変わる

宮本慎也(プロ野球解説者/評論家)

2014年03月25日 公開 2023年01月12日 更新

 

準備が意識を変える

 準備と意識は似ている。野球という競技が他のスポーツと少し違うのは、プレーの最中に「間」が多いことだ。それだけ考える時間があり、準備をする時間がある。どれだけ意識して準備をできるかが、結果を左右するわけだ。

 意識を変えるためにはどうすればいいのか。凡打が続いたり、エラーをしたりと結果が出ない時に心がけていたのは、「できることをきちんとやる」ということだった。

 野球だったら、基本に立ち返ること。まずは元気に声を出す。守備なら味方のカバーリングを欠かさない。攻守交代をなるべくスピーディーに行う。誰でもできることを本気で取り組むのだ。

 「そんな簡単なこと」と思われる方も多いと思うが、確実にできることから準備を重ねていくしかない。そこが乱れてしまっては、一時的にやり方を変えてうまくいったところで、身につかないからだ。

 例えばビジネスパーソンだったら、始業の30分前に会社に着く。部署に入った時は大きな声で挨拶することから始めればいい。営業だったら、契約を取れないこともあると思うが、それなら「今日は得意先を○カ所回ろう」とできることから始める。そして、「何が悪かったんだろう」「何を変えればいいんだろう」と考え続けることだ。

 レギュラーになれる選手とそうでない選手との間には大きな違いがあると思っていた。

 それは、失敗への対処の仕方だ。レギュラーになれない選手は、自分のスタイルにこだわるあまり、変わることができない。成功体験が少ないから、過去の1回の成功にこだわって変化を恐れてしまうのだ。失敗は運がなかっただけかもしれないが、失敗を認めなければ成長は止まってしまう。失敗を認めて初めて、矢印は自分に向かう。失敗を取り返せるのは自分自身しかいないのだから。

 ベテランと呼ばれるような年齢になっても、試合での不安や緊張感から解放されることはなかった。開幕戦では毎年、打席で足が震えていた。

 でも、そのプレッシャーがあるから、準備を入念にしようと思える。できる限りの準備をして、それでも結果が出なかったらまた「準備が足りなかった」と思うことができる。自分に満足してしまった時点で、成長は止まってしまうのだ。

 

意識ひとつで結果は変わる

 野球は奥深いスポーツだ。ひとつ課題をクリアしたと思っても、また新しい課題が見えてくる。私は2013年のシーズンを最後に現役を引退したが、最後の最後にも新しい発見があった。

 2013年は代打での起用が多かった。先発出場していれば、4回は打席が回る。先発投手とは3回程度は対戦があるわけで、1試合をトータルで考えることができる。ところが代打は1打席で結果を残さなければいけない。ましてや試合終盤の大事な局面になれば、相手チームのセットアッパーや抑えといった、力のある投手との対戦が多くなる。これは想像以上に難しかった。

 代打に回ってからは凡退が続いていた。思うような結果が残せず、打率も下降線をたどっていた。チームのお荷物になることだけは避けたかった。小川監督に「気を遣わないで下さい。2軍に落としてもらっても構いません」と進言したほどだった。

 ところが、8月下旬に引退を発表して以降、面白いように結果が出たのである。周囲からは「これだけ安打が続くと、引退するのが惜しくなったんじゃないか」と聞かれるほどだった。

 技術的に大きく何かを変えたわけではない。変わったことといえば、引退を発表したことで「残り打席は少ない。悔いのないように、思い切ってバットを振ろう」と思えるようになったことだった。

 ひとつ、大きなきっかけがあった。代打で結果が出ないなか、阪神で「代打の神様」と呼ばれた川藤幸三さんに話を聞く機会があった。代打の心構えを聞こうと思ったのだが、川藤さんの答えは意外なものだった。

 「お前はアホか。代打は補欠や。ほんまに期待されとったら、監督だって4打席立たすやろう。だから、打てんでも当たり前と思っとったらいい」

 これにはハッとさせられた。慣れない代打に回ったことで、自分自身に余計なプレッシャーをかけていたのである。それでは、打てるものも打てなくなってしまうのは当然だった。

 「代打の神様」と呼ばれた川藤さんでさえ、「打てんで当たり前」と思って打席に向かっていたという。「代打は補欠」と意識することで、余計なプレッシャーを感じないようにしていたのだ。私も引退を発表して「悔いのないように」とシンプルな気持ちに立ち返ったことで、自然と結果がついてきたのだろう。

 やはり、代打というひとつのポジションを極めた人は気持ちのコントロールがうまい。

 代打という1打席しかない仕事では、なおさら気持ちの切り替えが重要になってくる。意識ひとつで、結果は変わるのである。

 

<書籍紹介>

意識力

宮本慎也 著

意識が変われば人は大きく成長する。ヤクルトで3度の日本一、日本代表主将を務めた著者が、気づきを与えて人を動かす方法を著す。

 

<著者紹介>

宮本慎也(みやもと・しんや)

プロ野球解説者、評論家

1970年11月、大阪府生まれ。PL学園高校では2年夏に甲子園で優勝。同志社大学に進学し、2年春のリーグ戦で首位打者に。卒業後はプリンスホテルに入社。1994年のドラフトでヤクルトスワローズ(現・東京ヤクルトスワローズ)を逆指名、2位で指名され、翌年入団。2001年には、2番打者としてシーズン最多で日本記録、世界タイ記録となる67犠打で、ヤクルトの日本一に貢献する。2004年のアテネ五輪では日本代表のキャプテンを務め、チームは銅メダルに。2006年のWBC、2008年の北京五輪にも日本代表として出場。北京でも、キャプテンを務める。2012年に41歳5ヵ月の最年長記録でプロ通算2000本安打を達成(当時)。翌13年に引退。主な受賞歴は、ベストナイン1回、ゴールデングラブ賞10回。

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